星野久遠の手記 2
■月▲日 曇り
隕石の消滅から二日目。今日は衝撃的な事があまりにもたくさんあり過ぎて正直どうまとめていいものか非常に悩む。
一日の濃さや衝撃度合いで言えば、昨日を抜いてぶっちぎりの一位だ。どう要約しても長くなりそうだしじっくりと書きたい事がたくさんあるけど、明日に備えて休まなきゃいけない上に疲れ過ぎて眠気がすごい。
とりあえず、思い出せる範囲で時系列順に書いていこうと思う。
1,全国的に大規模な停電が起きている
今朝、買い物カートを返しにスーパーに行ったときに停電に気づいた。
その時はまだ全国で起きているとは知らなかった。我が家は太陽光発電が備わっているので、日が出てる間は一応電気は使える。
水道もいつまで持つかわからないので水も確保してある。
後で書くが、これは怪物が原因らしい。
2,神様は実在した
危ない事とか他にも色々とあったけど、たぶんこれが一番の衝撃。
子供の頃に遊びに通ってた小さな稲荷神社にいつの間にか立っていたと思ったら、お稲荷様が目の前にいた。
あの感覚は言葉に言い表せないけど、間違いなく本物だと感じた。
あの神社において僕しか知らないはずの事を見ていたように語ってくれたし、なによりも目の前に立ってるだけで圧倒されて体が動かないとか、はじめての感覚だ。
お稲荷様は服から髪から全部が真っ白な女性だった。実体化したのも例の隕石が原因らしくて、彼女は白狐の擬人化動物の姿をしている。
キツネは遣いであってお稲荷様そのものではないはずだけど、彼女の話を聞く限り狐との縁から隕石による異変に便乗する事ができたらしい。
お稲荷様から聞かされた話は三つ、一つはかつて僕があの神社へ通っていた頃の思い出話。これは、まあ割愛しよう。
もう一つは流星、つまりは隕石の力について。流星の力は獣や、獣と強い縁を持った存在に人の姿を与え、それらの怪我や疲労を癒やす力がある。
お稲荷様はその力の塊(透き通った虹色のキューブをたくさん寄せ集めたような拳大の結晶)を僕に預けた。
彼女から伝えられた傷や疲労を癒やす効果は、その後に起こった出来事で実証済み。
三つ目は、預けた流星の結晶を……えーと、たしかヤタガラス、八咫烏? に渡してほしいというお願いだった。
駆け足で言われた上、その後にいろいろあったせいでちょっと記憶が曖昧だ。
八咫烏、といえば三本足のカラスの姿をした神様だと記憶している。たしか京都に神社があるとか聞いた覚えがあるような。
その八咫烏もお稲荷様と同じように人の姿で実体化しているのだろうか。
とにかく、京都はちょっと目的地を過ぎてだいぶ離れてる。
無理する必要はないし結晶を失っても責めないとか言われたけど、神様からのお願いなんて貴重な体験ではあるし、時期を見て京都に行ってみよう。
お稲荷様はそれを僕に手渡すと、すっと消えてしまった。
……この事についていま考えてみたら、この擬人化現象は永続じゃない可能性があることに気づいた。
お稲荷様も他の動物と同じように流星の力で擬人化(実体化)しているなら、その力を取り出し手放したから消えてしまったなら、他の……クーたちも体の中の流星の力が尽きてしまったら、もとの動物へ戻ってしまう?
それは、ちょっと嫌かもしれない。
どちらの姿であろうと、本質的には変わらないのだろう。だけど、言葉を交わして仲良くなれた今となっては、あの子達と話ができなくなるのはとても寂しいと思う。
特にチビ助はあの姿を手に入れたことを喜んでいて人としての振る舞いを自分なりに学ぼうとしているようだし、それをあとになって取り上げるのは……自然現象みたいなものとはいえ、残酷だと思う。
これについては情報が少なすぎるし、とりあえずは保留だ。
3,隕石由来の怪物が辺りを徘徊している。
お稲荷様と別れてから、鳥か何かの擬人化動物を襲っている所に遭遇した。
【久遠手書きの図:触碗の生えた丸い巨大な目玉のようなもの】
簡単に手書きしてみたけど、大体こんな感じだったはず。サイズとしては直径数メートルで、触碗はかなり伸縮する。
先についてる鰐口はホントにワニの口くらいはありそうで、人が噛まれたら恐らくひとたまりもない。
色合いは青全体的に均一な青色で、目の部分のみ白と黒。
表面はゼリーのように波打ってるけど、見かけ通りじゃないと思う。
1〜2メートルほど空に浮かんでいて、結構な速さで追いかけてくる。こっちは道なりに逃げなきゃいけないのに、向こうは一直線に飛んで来るから逃げるのは容易ではない。ぶっちゃけ死にかけた。
体は相当重たい様子で、飛びかかってきた勢いでアスファルトを砕いてしまった。
アスファルトやブロック塀を壊すほどの勢いでぶつかっても損傷が見えなかったことから相当頑丈、もしくはゼリーみたいな質感通りに傷がついてもすぐにくっつくのだろう。触碗はちぎれても新しく生えてきたし。
ちぎられた触碗や砕かれた体の一部が虹色の輝きに分解されたことから、この怪物も擬人化動物たちと同じく流星の力を由来だと推測できる。(まあ、それ以外ないけど)
襲われた所に駆けつけてくれたシーザー、ダンシャク、まゆげ、ハナコら擬人化動物にたちによる攻撃によって退治されたため、同じ流星の力を持った彼女らであれば攻撃が通りやすいのかもしれない。
ゼリー状の体は砕いても砕いても小さくなるばかりで中々倒すことはできないものの体内には硬質な核のようなものがあり、それを破壊することで完全に倒すことができるらしい事がわかった。
4,政府からの報せ
政府からの報せがウミウの擬人化動物によって届けられた。
長ったらしいので内容の一部を要約すると
・隕石の消滅の直後から怪物が現れ始めた。公的には敵性不明生物と呼称(長いのでここでは怪物で統一する)。
・怪物は一見ゼラチン質のように見えるが、衝撃に対して非常に強靭。
・怪物は人の密集する地域や、発電所等の近くに多く出没する。
・怪物は人を捕食する場合があり、その後数分から数十分程度で排出する。捕食されると記憶の一部を失ったり、昏睡状態に陥るなどの症状を起こす。
・怪物はエネルギーを求める性質もあるのか発電所を襲って破壊、全国的、ひいては世界的に大規模な停電が発生、その為通信手段も制限されている。自家発電にも反応する場合があるので大掛かりな発電は控えること。
・自衛隊が人員を集めて対処に当たるも、状況は芳しく無い。
・怪物が車両やヘリ等を捕食しそれらを模した姿を取ることが確認されたため、動きのおかしい車両やローター音のしないヘリなどには近づかないようにすること。
怪物に関しては上記のような内容となる。
やはり、停電は怪物によるものだったらしい。自衛隊の手にも余る戦闘力に加えて擬態能力まで備えるとなると、遭遇を避けるためにも細心の注意を払う必要があるだろう。
捕食に関しては……うん、状況によっては捕まってしまっても死なないこともあるという事で前向きに見ようか。
次に、政府が把握している擬人化動物に関する情報をまとめると
・怪物よりも後の話となるが、動物の擬人化現象が確認された。
・大半が十代の少女の姿をしており、現状は男性型も一切確認されないため公的には「アニマルガール」と呼称。(長いので以下略)
・人型ではあるものの変化前の性質を残しており、強靭な身体能力や飛行などの特殊能力を持っている。
・言語によるコミニュケーションが可能であり、友好的な交流が可能。
・怪物は人間より擬人化動物を優先して襲うが、彼女らには怪物を撃退する能力を持っていること。
・怪物に捕食されると、元の動物の姿に戻ってしまうこと。
・擬人化動物は変化前の記憶を維持しており、飼い犬が元となった擬人化動物等は怪物から積極的に飼い主を守る傾向がある。
・現在、警察犬や警備犬による怪物対策を進めている。
要約すると、彼女らに怪物から守って貰えと言うことだろうか。
隕石騒動の直後で人員の確保が難しいだろうとはいえ、自衛隊が手こずるなら、同じ超常の存在に頼るしかないというのはわかる。
政府がウミウや伝書鳩の擬人化動物を伝達手段としてさっそく取り入れているところから見ても、状況が切羽詰まっているのが見える。
怪物が人の密集する場所に集まるということは、避難先であるシェルターのある町は確実に怪物が集まっているだろう。
実際、被害が確認されている地域の中には、三隅さんの避難先もある。
……シーザーが心配しているというのもあるが、僕としても三隅さんの安否は気になっている。
明日、シーザーたちとともに三隅さんの避難先へ出発する。
シーザーの鼻を頼りに三隅さんと合流できたら、とっとと帰るつもりだ。
人に寄って来るらしい怪物がいる以上、こちらのほうが恐らく安全だろう。ひょっとしたら、シェルターを破壊して侵入できるような怪物も出てくるかもしれない。
さて、準備も終わっていることだし、そろそろ明日に備えて寝よう。
けものわーるど Nyarlan @Nyarlan
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