【短編】チームプレイアレルギー
男梅 塩辛
1話
医者がモニターの映像を見て驚いているのが、見て分かった。
奥さんから、医者と若い女が楽しそうにバーで話している写真と、「この女の人だれ?」と書かれたメールが送られてきたのか、はたまた好きだったアイドルが突然結婚したという内容のネットニュースを見て驚いてるのなら良かったものの、モニターを覗くと私の検査結果らしきものしか映し出されていない。
「これは凄く珍しいですねぇ」
医者は、医者と私しかいない狭い病室なのに大きい声で言う。まだ高校生なのに耳が遠いおばあちゃんになったみたいで嫌な気分だ。
「な、なにか悪いものでも見つかったんですか?」
不安で仕方なかった。無理もない、私は昨日突然倒れて救急車に運ばれてたのである。
それは夏休み明け初日の登校日。
私は高校生活初めての夏休みともあり存分に遊びつくした。毎日のように同じクラスの友達と過ごし、海や山、夏祭りなどに行っては「私たち青春してるね!」と言いながら楽しんだ。だがしかし、青春を堪能した代償とでも言うのか夏休みの宿題を一切やっておらず、夏休み最終日にエナジードリンクを一気飲みし「青春のばっきゃろぉおおおおお」叫びながら徹夜で宿題を終わらせた。そのせいで眠気と闘いながらふらふらと学校へ登校。教室に入るとクラスメイトはみんな来ていて各々の仲いい人達で集い久しぶりの学校の空気を味わっていた。夏休みをともに過ごした友達たちが見え、私が来たことに気づくと「おっはよー!」と大して離れていないのに手を振った。私も徹夜明けのかすれた声であいさつしながら手を振る。
「おはよー。てか香苗、顔やばくない!?げっそりしてるけどどうしたの?」
「おはよ~。徹夜で夏休みの宿題やったらこんなことになっちゃったよぉ」
「いやいや宿題とか夏休み始まって一週間以内に終わらせるもんでしょ」
ここで突然異変は起きた。
まず両手の手のひらが赤く腫れあがり、そこから全身を蝕むように赤くなり、挙句の果てに誰かに首を締めらたの如く息が出来なくり、その場に倒れた。その後のことはあまり記憶に無いが、慌てながらも友達たちが保健室まで抱きかかえて運んで行き、保健室の先生が救急車を呼んだらしい。病院に運ばれて即入院。口に空気を送るマスク、左腕には点滴、右腕には血圧を測るためのバンドが着けられ十分置きに右腕を締め付けた。迅速な処置のおかげか一時間も経たずに呼吸は安定し、全身を覆っていた赤い腫れは引いていった。だが安静にとのことで一晩病院のベットの上に過ごし、次の日に健康診断で行うような検査をし、そして今に至る。
「菊池さんの昨日の症状はアナフィラキシーショックと言ってアレルギー症状が出た時に起こるものなんですよ」
「あ、アレルギーですか?」
君は末期癌にかかっていてね、あと余命三年ですよ。と言われる最悪の予想が外れて少しほっとする。けどアレルギー?予想外な発言に混乱。
「そう、アレルギー。だから血液検査で何のアレルギーがあるか調べたんだけどでうすけど、これが最近になって発見されたとっても厄介なアレルギーなんですよね。」
医者の口がへの字に曲がる。この人は感情が表情に出やすいんだなぁ、患者の気持ちも考えてよ。
「何のアレルギーですか?」
「それがね、チームプレイアレルギーと言うんだ」
「チームプレイアレルギー?なんですかそれ、友達ができない人が良く言うあれですか?なんでも病気にの所為にするやつ」
「いや菊池さんの言うそれとは違うと思いますよ・・・。あと菊池さんって案外きついとこあるんですね・・・」
医者は苦い顔をしたが、すぐさま真剣な表情になり、黒い強い眼差しを私に送る。
「チームプレイアレルギーとはまだわからないことが多いんだけど、解明されていることが一つだけあります。それは発作が出る条件が三人以上で会話するということです」
「3人以上で会話すること?」
「そう、自分自身を含め三人以上で会話すること。今こうして二人で話しをしる分には何も起こらないけど、そこに一人加わって会話をすると昨日の様な発作が起こってしまうというアレルギーです」
確かに発作が起こった時、私と友達二人、合計三人で朝のやり取りをした時だったのを思い出した。私は一人っ子で両親は離婚していて母親しかいないので、朝ごはんを食べている時は二人だったし、登校中は眠気覚ましにヘッドホンをして音楽を聴いていたから話しかけられることはなかったので、全身が赤くはならなかった。で、でもなんで。
「なんで私はそんなアレルギーなってしまったんですか」
訊かずにはいられなかった。生まれて今までアナフィラキシーショック(だったっけ?)なんて起こったことなんてなかったし、それどころか病気という病気なんて罹ったことがなく、中学生の頃は皆勤賞だったことが自分の唯一の功績だと、胸を張っていたぐらいだ。そんな私がアレルギーに発症するなんて、考えられない。
「それが原因不明なんですよ。このアレルギーはここ最近に発見されまして、まだ十人も発症した人がいないんです。ただ食物アレルギーの場合ですと、毎日同じ食物を食べていたらアレルギーになってしまったという事例もあります。あとはストレスや疲れなので免疫力が低下するとアレルギーが発症するということもあります。ですがチームプレイアレルギーのデータが乏しいので参考になるかは、わかりません」
夏休みに毎日友人と遊んで過ごしたこと、徹夜で宿題をやったことによって身体に疲れが溜まっていたこと。考えてみると共通点が出てくる。
「まぁ、アレルギーも持つと生活が不自由になりますが、気を付けて過ごしてください。」
医者は早く検診を終わらせたい空気を出しながら言い、その空気を汲み取り「ありがとうございました。」と一礼して席を立った。それにしても、気を付けて過ごせと言われても難しい。友達とも自由に話せないんだろうなぁ、と想像してみるが上手くできない。私の生活どうなるのだろう。多くの不安を心に残したまま病院を後にした。
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