第24話

三回以内で全問正答すると豪語した志保。


それを俺は信じて走り続ける。


だが相手は知識と体力で俺たちを超える伊藤桜と咲のペア、マッチョたちもいる。


生徒会長がいなくなったとはいえまだ油断はできない。


「さてえええええええ。残り一枠を賭けた戦いが今始まるううううううう。残り九組のうち勝ち残るのは誰だあああああああああああああ」


相変わらずテンションの高い司会者だった。


「ではいくぞおおおおおおおおおお。みんな準備はいいかああああああああ」


「はひぃ。残り一枠どうにか勝ち取らなければ」

「桜ちゃん頑張るよっ」


からだの弱い咲が走るのは若干不安だったが彼女が決めたことだ。

止められない。


「俺たちも本気をだすか」

「さっきは生徒会長にしてやられたからな」


マッチョたちも奮起したようだ。他の参加者たちもわずかな可能性に賭けて集中力を高める。


「問題。英語で早く起きた鳥が……」

「ピンポン」


俺は必死に走っているから誰がボタンを押したのかはわからない。

頼むぞ志保。

あと三個の正解で勝ち抜けるんだから。


「おっとおおおおおおおおおおお。一番に押したのはなんと蕪木・山谷ペア」


よっしゃあ。志保が押してくれたようだ。


「The early bird gets the worm」


滑らかな発音で彼女が答える。


そして。


「ぴんぽーん」


ピコピコした電子音が響き俺たちの正解を一個確保した。



残るはあと二つ。


「問題。1600年に関ヶ原の戦いが起きましたがその際西軍から東軍に寝返ったのは……」


まずい。マッチョと咲が走り始めている。

彼らの作戦は俺たちとは違う。


とにかくがむしゃらに走っている俺に対して彼らはわかる問題にダッシュをかけている。


特に体力に不安のある咲はそれが顕著だ。

伊藤桜が合図を送ると必死に走り始める。


「咲ちゃんファイトですぅ」


伊藤桜が必死に彼女を励ましている。

二人の間に見えない絆を感じた瞬間だった。


一方のマッチョたちは無言でうなずきあう。

「お前に任せた」

「おうよ」

一見するとマッチョたちに有利にも見えるが女子たちは七割でいいため確率は五分五分だ。これは戦略だろう。


しかもこの問題全員がわかっている。

あとはスピードがものをいうはずだ。


走れ走れ。

志保が答えられるように。

ただ全力で走る。


そしてとにかく必死に走ること数十秒。


「ピンポン」


「おっとおおおおおおおお。今回は誰が押したかああああああああああああ」


司会者も混乱させるほど皆がボタンを押していた。


「小早川秀秋」


志保が淀みのない口調でそう答える。


「さてええええええええええ。果たして蕪木・山谷ペアは正解できるのかなああああああ」


司会者が叫ぶと焦らすようにドラムロールがなる。


なんの演出だよと思いつつ俺は正解かどうか見守る。


静寂が訪れ全体に緊張が走る。


そして。


「ぴんぽーん」


「うおおおおおおおおお。蕪木・山谷ペア二問連続で正解だああああああああああ」


司会者が絶叫するとギャラリーたちも騒ぎだす。


「蕪木さああああああああああああああんっ! やったあああああああああああ」


「志保ちゃあああああああああんっ。最高だよおおおおおおおおおお」


若干野太い声援が彼女に向けられる。


ってちょっと俺の方は?


少しは誉めてくれるんじゃないかと耳を傾けるが俺を称える声は全然聞こえない。


ちょっと残念に思いながらも気分を切り替える。


「よくやったわ渚。あと一問よ」

「こちらこそ正解よくやった」


俺たち二人は苦労を労いあう。


よかった。志保が答えてくれた。

それだけで十分だ。


これであと一問。

王手に手をかけた。


「さてえええええええええええ。蕪木・山谷ペアが勝利まであと一歩となりましたああああああああ。だがまだまだ問題は続くぞおおおおおおおおお」


「ううぅ。頑張らなきゃ」

「咲ちゃん無理は禁物だよっ」


「でもここで走らなきゃ女が廃るってもんよ」


疲れているはずなのに力をみなぎらせる咲だった。


マッチョたちの方も。


「そろそろギアをあげるか」

「早押しも全力でやるぞ」


他の参加者たちも俺たちの勝ち抜けるのを全力で止めようと必死だ。


「問題。観測者の距離によって……」


あっ。これわかる問題だ。


俺は一瞬で駆け出す。


「音の波形が変化する……」


志保の方に目線を送る。

彼女は迷っているようだった。


心の内で彼女に念を送る。

正解はあれだ。

ドップラー効果。


それならば。

多少むちゃくちゃでもいい。

俺は必死に走る。


さっきから走りすぎて乳酸がたまっている。

疲れが出てきたのかもしれない。


息が上がってきた。


「ぜえぜえ。ハアハア」


呼吸が苦しくなりまるで過呼吸でも起こしているみたいだ。


そういうときは深呼吸だっけ。


今はそんな余裕ないから目をつぶるけど。


そうすると意識が鮮明に感じられる。


全身の神経が一つのことに集中して周囲が無音になる。


ドクンドクン。


心臓が高鳴る。

全身の血が駆け巡り心臓へと循環する。


「……のはなんでしょう?」


頼む。志保。答えてくれ。


自分の体力があまり長く持たないことがわかりこれが最後だと悟る。


残りの体力なんてあるはずがない。


この問題は俺でも正解がわかったはずだ。


だったら志保もすぐに答えられるだろう。


だが周囲の人間で回答する者はいない。

走れ。走れ。


俺は自分自身に言い聞かせる。


志保がボタンを押すのが目にはいる。


「ピンポン」


彼女が答えを言うのを待つ。


だがなかなか答えは出ない。


待ってくれ。

これ以上は俺も走れない。


だったら。


俺はむちゃくちゃな手段に出る。


マイクを手繰り寄せ大声で叫ぶ。


「ドップラー効果っ」


「なんとおおおおおおおおお。走っている山谷渚が回答したぞおおおおおおおおおお」


司会者の言葉に周囲がざわつきだす。


「なんであいつが?」

「学年でも成績は下の方なのにっ?」


おうおう騒げ騒げ。

俺は残りの体力ないもんな。


志保が答えられないなら俺が答えるしかないだろう。


「さてええええええええええええ。蕪木・山谷ペア。三問連続正解となるかああああああああああ」


ドクンドクン。

心臓がいたいほど鳴り響く。


まるで外にも聞こえているみたいに。


「ぴんぽーん」


「なんとおおおおおおおおおおおおお。山谷渚の正解だああああああああああああ」


その言葉にギャラリーが沸き立つ。


「宣言通り、三問連続正解だな」


俺が志保に対して弱々しく笑いかける。


「バカ。無理しすぎよ」


大口叩いたわりに俺のこと心配のようだ。


ちょっとは俺のこと気にかけてくれているらしい。


「蕪木・山谷ペアの勝利いいいいいいいいいいいいいい。決勝戦は生徒会長と柊あおいペアと戦うことになるぞおおおおおおおおおお」


「ぜえはあ。ぜえはあ。が、頑張ります」


マイクを向けられ一言そう答える。


「やあやあ頼もしいねえいいいいいいいいいいい。こいつは次回が楽しみだああああああ」


ギャラリーが大声で祝福してくれる。


「うおおおおおおおおおお。やったな蕪木さあああああああああああああん」

「志保ちゃああああああああああん。惚れたああああああああああああああ」


って俺の偉業は誉めてくれないのか。

ちょっと残念だったが勝利できたのはラッキーだった。


俺も役立たずじゃないことを証明できたし。


そして戦いは決勝へと続くのであった。



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