第13話

かくして生徒会主催のクイズ大会が開催されることとなった。

ルールは簡単。二人一組でチームをつくって参加表明を行うだけ。


あまりのもベタな展開に俺たちは不安を覚えた。

生徒会長こと沢村栄治が主催者なのだからなにか人の裏をかくような作戦に出るのではないか。学園中で噂になっていた。


「しかし俺は誰と組めばいいんだ?」


徒然部の部員は合わせて五人。奇数なので自然と人があぶれることになる。


「おい渚まだペア作っていないのか?」


同じクラスの男子の多くがすでにチームを作り終えている。


「徒然部に相手がいないのか? 例えば部長の蕪木志保とか仲のいい柊あおいとか」


「うーん。俺が組むと誰かがあぶれることになるだろ。それがかわいそうでな」

「人の心配している暇があるならさっさとやった方がみんなのためだぜ」


彼の言うことはもっともなのだが部員たちのバランスを考えると二の足を踏むのであった。


「まあ困ったらお前には蕪木志保がいるからな」


校内公認カップルだからなと冷やかされる。


「俺たちはそんなんじゃねえよ」


あの猪突猛進で暴力ふるいまくりな志保の手綱を辛うじて握っているだけだ。

俺はいわば振り回される側で。


「だけど生徒会長にとられるのは嫌なんだろう?」

「そりゃせっかく部員が揃ったのにあいつがいなくなったらみんなが困るだろう」


考え込むのは性に合わない。というかあまり深いことを考えるのに向いていないのかもしれない。


「本当にそれだけか?」

からかうように彼は聞いてくる。


「それ以上でも以下でもないよ」


俺にとって徒然部のみんなは大切な仲間だ。志保のこともそうだが一人たりとも抜けてほしくない。


それは不真面目な俺でも思うことだから志保は特に真剣だろう。

生徒会の意味不明な宣戦布告に負けるわけにはいかない。


「心配してくれてありがとな。せっかくだから部室にいってみんなペアができたか確認してくるよ」


俺は彼に礼をいい教室をあとにした。


***


「あれ? 今日は早いね渚」

部室では咲と伊藤桜が仲良くしゃべっていた。

一年同士気を許しあっているのかどこか楽しそうだ。


「ふふーん先輩。いいニュースと悪いニュースどちらから聞きたいですか」


伊藤桜が得意気に質問する。


「じゃあいいニュースで」


「私たち二人でチームを組むことに決めました」


どうやら咲と伊藤桜も参加するつもりらしい。それはよかった。


「咲もクイズ大会はじめてだから楽しみだね」

「この私が参加するからには頂点目指しますよ」


普段はおとなしい伊藤桜が珍しくやる気だった。


「私たちは副賞の図書券を必ず手にいれてみますとも」

「その意気だね桜ちゃん」


どうやら本好きには美味しい大会のようだ。


「へえ大賞はどうなってるの?」

「それはとるまでの秘密だそうです」


生徒会長の考えることだからろくなことがなさそうだ。

副賞狙いというのは案外賢い選択みたいだ。


「それで悪いニュースは?」

「実はあおい先輩がすでにチームを作ってしまったようです」


ちょっと残念そうな口調でそう告げる。


自称友達が少ないあおいだがコミュニケーションスキルには問題ないので組む相手はすぐ見つかったのだろう。


「まだ相手は誰かは聞かせてもらっていないんだけどね」


秘密主義の彼女らしい。手強い相手になりそうだ。


「じゃああおいが抜けた分志保が残っているということか」


「渚早く先輩を誘ってあげてよ。今日会ったときなんて少し寂しそうだったよ」


孤高の存在である志保に憧れる生徒もいるが高嶺の花として近づく人間はあまりいなかった。


「志保先輩、先輩が話しかけないからちょっと拗ねてましたよ。今日は竹刀も握ってなかったし」


竹刀持っていないイコール元気ないみたいな扱いはどうなんだろうと思いつつ。

志保がすねてるのは意外だった。彼女のことだからさっさと別の人間と組む手だってあるはずだ。


「わかったよ。志保がかんしゃく起こす前に誘っておく」


そのあとはとりとめのないことを話していた。

しかし廃部寸前の徒然部に活気がつくのはいいことだな。


そうのんびりとしていると。


「あらみんな部室に揃っていたのね」

「やっほー。渚くんまだぼっちなの?」

「ぼっちというな。まだペアが決まっていないだけだ」


志保とあおいが部室に入ってきた。


「そういえばあおいはすでにチーム作り終えたんだっけ?」

「そうそう残念でしたー」


あおいはニッと笑い俺の肩を叩く。


「決まっていないのは渚くんと志保さんだけだよ」


やはりそういうことか。あおいは俺たちを組ませるために一人身を引いたのだ。


あおいを一瞥すると彼女はにへらと笑う。


「さあさあ早くチーム組まないと練習もできなくなるから早めに決めちゃいなよ」


志保さんもねと付け足す。


「べ、別にあんたと組むのが嫌って訳じゃないから。でも一緒にやるのも悪くないわよね」


長年の付き合いでわかるけど、つまり俺と組みたいという婉曲な言い方だった。

彼女は気恥ずかしそうにもじもじしている。


「やっぱり組むなら普段から性格を理解している相手の方が信用できるから」


「なんか素直な志保って今日は嵐でも来るかな」

「し、失礼ね。こっちは本気なのよ」


「ちょっとからかっただけじゃん」

「そういうところが気にくわないのよ」


恨めしそうに俺を見上げる。それが案外かわいいもので。


「渚、足引っ張ったら許さないからね」


そういって彼女は手を差し出す。

握手しようってことだろうか。


「じゃあ俺と組んで、生徒会長をぎゃふんと言わせよう」


彼女の手を握る。小さくてひんやりとした手のひらの感触が直に伝わってきた。


「ギャフンってちょっと古くない?」


あおいが指摘する。


「いいんだよ。昨日はあいつにさんざん言われたからな」

モブ部員だの人の名前を覚えない失礼なやつだった。

唯我独尊をわが道でいく男だ。自分大好きナルシストやろうには厳しい現実を見せつけてやろう。


「じゃあみんな申込用紙を生徒会に提出しないとね」


あくまで生徒会主催のイベントなので運営するのも生徒会だ。

会長の沢村が自分の権力で話を進めたのだから他の生徒会の人間は戸惑っただろう。


だが彼らは粛々と作業をしている。


完全にイレギュラーなイベントだと思っているが運営はしっかりしている。


「申し込み用紙はここにあるわ」


伊藤桜と咲の分と俺たち二人の分が渡された。


「ちゃちゃっと終わらせて生徒会室に行くわよ」

「へい」


俺は署名欄に山谷渚と自分の名を記す。


「しかし何が起きるか想像できないな」

「大丈夫よ。私は今まで勝負に負けたことないから」


だが今回ばかりはペアの戦いだ。

片方が足を引っ張らないようにできる限り得意科目の担当を割り振らねば。


「知性でも体力でも負けていないってことを証明して見せるわ」


志保はぐっと拳を握る。


「あんたも頑張って優勝目指すわよ」

「りょーかい」


まだ先のことはわからないけどできることはやってみよう。

俺も大概バカだけど得意分野の知識には自信がある。


それをいかせればうまいこと志保と上を目指せるのではないか。


「じゃあ私生徒会室で書類出してくるから。伊藤さんと咲ちゃんも一緒にいきましょう。今は生徒会長がちょうどいない時間帯だから」


「俺もついていくよ」


「そのあと図書館に行くから覚えておいてね」


かくしてチーム決めは無事に決まったのだった。




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