第6話
昨日の今日でなんだが咲を早速徒然部のみんなに紹介することにした。
「はじめまして山瀬咲です。よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をする姿はやはり小学生の朝礼みたいでほほえましい。
「って渚くん咲ちゃんの前ではデレデレだねえ」
「やに下がっていて不審者と間違われないか心配だわ」
あおいと志保が好き勝手に感想を言う。
「まあいいじゃないか部活の人数確保できたんだし結果オーライだろ」
俺がとりなすと三人は打ち解けたようだった。
「あと一人伊藤桜さんが残っているけどこれで部員の確保の見通しがたったわね」
「伊藤さんってC組の娘ですか?」
候補の一人である伊藤桜の名を聞くと咲は不思議そうに尋ねた。
「彼女いつも図書館にいるでしょう。だから徒然部に勧誘しているの」
志保が丁寧に答える。
「そうなんですかー。咲もC組なんですけどあんまり交遊関係広くなくて」
「でも渚の知り合いなんでしょう」
俺と知り合いイコール変人扱いされないか心配だ。
俺も大概だからな。
毎日学校に通っているが授業中は居眠り。放課後もそそくさと学校を出て部活をサボりろくな生徒ではない。
「一応いっておくが類は友を呼ぶとかいうんじゃないぞ。咲は立派な娘なんだから」
「出たあ。渚くんの過保護」
あおいが茶々をいれるがこの際気にしていられない。
「家に帰ったら家の手伝いもしているし成績も中の上だし俺なんかよりずっと偉いんだからな」
「渚、それって誉めてるつもりなの……?」
咲は少し不満顔だった。中の上がまずかったのか。
「わかった。立てば芍薬、座れば牡丹、歩くは百合の花って感じの真面目ないい娘なんだ!」
俺が熱弁を振るうごとに周囲の人間は引いていく。
「なんか咲そこまで言われると若干引くな……」
またしても咲のテンションが下がる。
まずい。どうにかしないと。
「まあまあ渚くんが変人なのは今さらだからあ」
あおいがフォローを入れてくれる。でも俺にたいしてはまったくフォローになっていない。
「とにかく山瀬さん、徒然部の一員としてよろしくね」
先輩ぶれるのが嬉しいのか志保はルンルンだった。
「先輩よろしくお願いしまーす」
「困ったら私に相談してね」
実際は猪突猛進タイプの志保に困ることの方が多い気がするが。
そう思っていると彼女から冷たい視線が浴びせられる。
「今失礼なこと考えていたでしょ」
「な、なんのことでしょう」
すっとぼけると今回は後輩がいるためか深くは探ってこなかった。
「まあいいわ。ようやくサボり魔の渚が新入部員を連れてきてくれたのだから」
「わあボクも後輩ができるなんてはじめてで嬉しいよお」
志保とあおいは素直に喜んでいた。ここで反発されたら困るのでよかった。
「先生からは私が報告するわ。とりあえず徒然部の存続も決まったし部員はあと一人だし幸先いいわね」
「うんうん。これもボクが入部したお陰だねえ」
「いや咲をつれてきた俺のお陰だろ?」
「渚くんのドヤ顔だあ。見ていてちょっといらっとするかも」
俺が得意気になるとどうしてかあおいは意地悪くからかってくる。
「先輩たちーしゃべるのもいいですけど咲まったくなかに入っていけません!」
「大丈夫よ。二人の夫婦漫才は日常茶飯事だから」
志保はあきれたように口にする。
「むう。志保さんのほうが渚くんといちゃいちゃしてるよお」
「私は彼があまりにもいい加減だから注意しているだけ」
顔を赤くしてそういうがあまり説得力はない。
「そうやって否定されると余計意地悪したくなるなあ」
「と、とにかく。やっと部員も揃ってきたのだから伊藤さんの勧誘頑張らないと」
ごまかすように今後の目標を宣言する志保だった。
「それでその伊藤さんなんですけどー、彼女両親が厳しいらしく成績維持できないなら部活に入っちゃダメって言われれているそうです」
咲が新たな情報を提供してくれる。
「だから図書館で一心不乱に読書していたのね」
「ふうん。どういうこと?」
読書と勉強がイコールで結び付かない。
「おそらくだけど彼女は居残り勉強していると見せかけて趣味の読書をストレス解消にしていたのじゃないかしら」
志保がそう指摘する。言われてみればそうだ。俺のクラスメイトにも似たようなやつがいた。家に帰っても勉強に集中できないから学校でする。でも学校にだって誘惑はたくさんある。
「つまり勉強するはずがストレスでそれどころじゃないってこと」
それって本末転倒じゃないかと思った。
「珍しくあんたと意見があうわね」
志保が妖しげに微笑む。なんだか良からぬことを企んでいる気がする。
「伊藤さんのストレスの原因はおそらく厳しいご両親。成績が維持できないから部活に所属しないのではなく、ストレスのもとから離れていたいから図書館に居座っているはずよ」
つまりどういうこと?
「ストレスから離れられるなら図書館も徒然部も場所が違うだけで変わらないわ」
「それはどうかなあ?」
あおいは懐疑的だったようだ。
「ボクも伊藤さんのストレスのもとが厳しい環境っていうのは納得だけど彼女が自分の意思で入ってくれないと意味がない気がするよお」
確かにそうだ。いくら俺たちが勧誘しても本人にその意思がなかったら意味がない。
「咲は先輩方の話を聞く限り徒然部の勧誘はした方がいいと思います。だってせっかくの学生生活楽しいことしないと損じゃないですか」
それは俺が徒然部に誘ってくれたことを肯定してくれるようで嬉しかった。
「まあかわいい後輩の言うことだからボクはおとなしくしておくよお」
あおいもそれで納得したらしい。
「でも彼女は手強いよお」
「それはどういった基準で?」
「ボクの経験則」
あまりはっきりとしないが彼女は伊藤桜の勧誘は難しいと踏んでいるらしい。
「これ以上はやる気を削ぐだけになりそうだしせいぜい無駄にならないようにがんばるんだよ。引き際は肝心だしねえ」
かなり後ろ向きな発言だ。いい加減なあおいが真面目な顔で俺たちに忠告をするのは珍しい。だから俺は彼女の発言も大切にしたいと思った。
「あおいありがとうな。今は一回話しただけだし、これから粘り強く勧誘すればいいさ」
「そうね。あおいさんの発言はもっともだけどせっかく勧誘するなら合いそうな娘がいいしね」
「咲も同じ学年の部員がいてくれると助かるしね」
「そういえば山瀬さんのことはどうやって呼ぼうかしら」
「咲でお願いします」
俺以外は全員初対面なので少々やりとりがぎこちないが次第になれてきたようだ。
「じゃあ咲ちゃんでいいかしら」
「ボクも志保さんも意地悪しないから好きに読んでいいよお」
まるで俺たちが意地悪するようないい方だな、と思いつつ。
「では志保先輩にあおい先輩、でいいですか?」
「ねえねえ俺は?」
せっかくなので聞いてみる。
「うーん学校だと先輩呼びじゃないと不自然だよね」
「じゃあ渚先輩で」
「なんか渚が先輩って不便だな」
咲は少し不満げだった。
「家だったらいつも通りにできるのに」
「ここでも楽にしてくれ」
俺が親切心で言うと志保とあおいが笑いだす。
「ぎこちないのもなんか見ていてほほえましいわね」
「うー。幼馴染みが先輩後輩って美味しい関係だよねえ」
二人して好き勝手なことを言う。
俺たちが付き合っているとか言う噂がたったら苦労するのは咲だ。
なので関係を否定しておく。
「俺たちはただのご近所さんだからなっ」
「なによそれ。ツンデレかしら」
「むしろツンギレって感じだあ」
それを複雑そうな表情になる咲。
「って悪い。俺たちだけで騒いで」
「別に気にしないでいいですよ。渚先輩」
なぜか距離のある言い方をされる。
「ううっ俺咲に嫌われたら生きていけない」
かわいい妹分は怒ると怖いのだ。
「もう渚って単純」
タメ口で俺の頭を軽く小突く。
「それより早く図書館いかないと伊藤さんいなくなっちゃうよ。彼女五時半にはいつもいないから」
時計を見ると五時を過ぎたころだった。
「いけね」
新入部員の歓迎もそこそこに俺たちは本来の目的へと戻る。
目指すは伊藤さんの入部だ。
現状:部員四名
目標:伊藤桜の入部
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