5
「やめろっっっっっっ!」
激昂した博斗は、グラムドリングを取り出した。グラムドリングが、鮮やかな白の炎を吹き上げる。
雄叫びを上げながら、博斗は両手でグラムドリングを振り下ろした。
博斗の一刀が、障壁を薄い紙のようにやすやすと切り裂き、消滅せしめた。
はぁはぁと荒く息をつき、驚きに声をなくしてこっちを見ているシータに歩み寄ると、その腰をぐいと抱き寄せた。
「来いっ!」
「離せっ! なぜ! なぜ私を助ける? お前も死ぬぞ?」
「ずいぶん遠い昔に、それと同じことを聞かれたことがある。俺がまだオシリスで、ひかりさんがまだイシスだった頃の話だ。イシスが、いまのお前とそっくり同じことを俺に言った」
シータの抵抗が止まった。
「ひかりさんは一人で充分だ。大切な人が死ぬのを見て自分だけ生きるなんてのは、俺にはよっぽどそのほうがつらい」
「馬鹿だな、お前は」
シータは泣き笑いのような表情を見せた。
「ああ、馬鹿だな」
博斗はむっつり答えると、卵型のカプセルの前に立った。
よく見ると、スイッチのような四角い穴がある。それを押すと、音もなく静かに、カプセルのドアが開いた。
「人間ってのは、ときどき説明がつかないぐらい馬鹿なことをしたがる」
博斗は、シータを先に中に押しこんだ。
「それが人間ってもんだ」
「ちょっ…このカプセルは一人乗りだって…!」
シータが、稲穂だったときのように、見ていていじらしいほど動揺した。
「大丈夫だよ。お前、けっこう痩せてるみたいだし。俺も、そんな太ってるほうじゃないし」
「そ、そういうことではなくて…あ!」
博斗は、体をシータに密着させてカプセルに体を押しこむと、後ろ手にドアを閉めた。
五センチも離れていないところにある、人形のように繊細なシータの顔にどきまぎし、照れ隠しに歯を見せた。
シータは博斗の胸に顔をうずめた。
「お前は…いいやつだな」
博斗は、狭くて不自由なためもあって、腕を回して、シータを包んだ。
「そう思わせるのが男の常套手段だ。覚えといたほうがいいぞ」
「大丈夫だ。私はお前しか見ない」
「宮殿が自爆するって言われたときより、怖いことを言われたな」
「…どういう意味だ?」
震動がカプセルのなかにまで伝わってくる。
いっそう激しくなってきた。
これ幸いと博斗は話を逸らす。
「…な、なあ、ほんとうにこのカプセルで助かるんだろうなあ?」
「知らん。少なくとも一万年前は正常に動作した」
「あ、そ」
「おまけに二人も乗っているからな。はたして、無事に脱出できるかどうか、しれたものではない」
「そのときは、そのときだ。俺と一緒ならお前も天国にいけるぞ」
ふふ、とシータは笑った。
やっぱり、笑うとシータはとてもきれいだと博斗は思った。
「思えばずっとお前に振り回されていた」
シータが呟いた。
「そうか?」
「ああ。そうだ。けれど…」
「けれど、なに?」
外の震動がひどくなってきた。
「…そういうお前を、私もひかりも、愛してしまった」
「え、なに? 騒音がひどくてよく聞こえなかったぞ」
「…くす」
動力炉が爆発した。
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