14

扉の向こうは、幅が二、三十メートル、奥行きも同じ程度はあろうかという広間だった。


ここも相変わらずあまり明るくはない。

ぼんやりとした青っぽい光が、石造りの床を照らしている。


奥に、石の玉座がある。

玉座の傍らには、見覚えのある人物をかたどった四体の石像が立っている。

イシス、シータ、ピラコチャ、ホルス。


玉座に、布の塊があった。


一歩、二歩と博斗とひかりが歩みを進めるにつれ、その塊が僧衣で、血色の悪い手首と頭部が突き出している事が分かった。

頭部には、簡素な飾りのついた冠がはまっている。


玉座から、僧衣をまとった男が立ちあがった。


博斗とひかりは足を止めた。


「マヌ!」


博斗はグラムドリングを構え、刀身を出そうとした。

ひかりは、博斗より数歩下がったところで控えている。


「待て、オシリス」

はじめて、マヌが口を開いた。

言葉そのものが温度を奪っていくような、ぞっとするような声だ。


博斗は、マヌに問いかけた。

博斗がマヌに訊ねたいことは、一つだけだった。

「シータはどこにいる!?」


「あんな女はどうでもよい! オシリス! なぜ私に逆らう! 貴様の頭脳と力、百年に一度の逸材であったというのに!」


「やかましい化石野郎っ! お前の時代は、もうとっくに終わっているんだ」


「たわけたことを。動力炉はすでに動いている。じき、我々の力が甦るぞ。復興のときは近いぞ! …戻れ、我が元に。叛乱の罪、すべて消してやる」


「それは、オシリスになら通じたかもしれない。けど生憎、俺はオシリスとは違うんだ。俺は、瀬谷博斗という日本人なもんでね」


「では、なにが望みだというのじゃ貴様は!」


「なにも。なにもないことが望みだ。なにもない平凡な日に戻れることが、望みだ。そのためには、なんとしてもお前と、お前の帝国を、再び海底の泥のなかに沈めなければならない」


マヌの喉から唸り声が聞こえた。

「貴様…裏切りのイシス。貴様も同じか?」


名指しを受け、ひかりはやや身をこわばらせたが、しっかりとした声で答えた。

「私は、一万年前にすでにあなたと兄を裏切ったのです。いまさらなにを私に求めますか?」


「あくまで話は聞かぬか。それならそれで構わん。いずれにせよ、貴様達を片づければ、邪魔などおらんのだから」


博斗はグラムドリングを構えて足を踏み出そうとした。


「慌てるな。…貴様等如き、私が出るまでもない。裏切り者は裏切り者の相手が、ふさわしい」


カツン、カシャ。カツン、カシャ。


乾いた金属の音がする。

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