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博斗の眼前にいるシータは、つつましげに目を伏せると、肩当てを外し、次いで、派手に彩られた金属片で覆われている黒革の胸当てをも、さも窮屈そうに脱ぎ捨ててしまった。
(おい…どうするつもりなんだ、おい、シータ!)
声が出ない。
体も動かない。
目を閉じることもかなわない。
ただ博斗は、眼をひん剥いたまま、身に纏うものを着実に外していくシータの姿を凝視しているだけだ。
胸当てを外したシータは、ためらわずさらに下半身の脚甲とブーツも脱いでしまった。
シータは、鎧の下に、体にぴったりと密着した黒いスーツを着ているだけだった。
戦闘員の着ている簡易強化服の色違いのようだ。
潜水服のようにも見える。
その格好になると、シータの体の線がいやがおうにもはっきりと出た。
翠にも負けない出っ張りとへこみだ。
傍観者として夢のなかの博斗をみている博斗は、これはほんとうのシータではないと主張していた。
自慢ではないが博斗は、どんなに着込んだ服の上からでも女性の体つきを見分けることが出来るという特技をもっている。
制服の上から見透かした稲穂のスタイルは、ここまでグラマーではない。
いやむしろ、スマートで、華奢といったほうがいい。
これは、なにか博斗の歪んだ欲情が描き出したありえないシータの姿なのだ。
えいくそこの色魔め! と自分をのろっても、しょせんは自分のサガである。
それでけっきょく博斗は、夢をみている博斗、傍観している博斗ともども、なんだかんだいってにやけた顔をし始めた。
そうしている間にも、シータは手袋を捨てて、白く細い指を、鎖骨の辺りのスーツと肌の境界に這わせた。
(い、いや、ちょっと、待った!)
博斗は、たじろいだ。
シータが博斗に近づいてきた。
(私にも、女としての生き方を教えてくれ)
(そ、それは…教えたいのはやまやまなんだけど、ちょっとタイミングが…)
(なぜためらう? イシスには、ひかりには教えたではないか?)
(そ、それはそうなんだが、ひかりさんがいるからこそいまはまだ…)
(博斗。私の心は狂いそうだ。二つの私が攻めぎあって苦しいのだ。博斗にしか、この苦しみは癒せない。博斗…)
シータの指が、スーツをめくりあげた。
黒いスーツと対照的にさらっと白い肩がむき出しになる。
(さあ、博斗。おまえが望んでいるものだ。さあ、博斗)
(シータ! まだ早い! まだ俺には…)
(さあ、博斗!)
シータが博斗に体重を預けてきた。
柔らかい息が博斗の首筋にかかる。
意志には関係なく、厄介ものが目を覚ましてきた。
(さあ、博斗!)
博斗は悶えた。
くそ! もう!
なんでこんな夢みてんだ俺は!
うお~、目よ覚めろ~。
さあ、
さ
め
ろ
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