2
夢は潜在的欲望の具現化される世界であるとフロイトは言った。
ではこの夢はなんなのか。
博斗は、夢をみている自分と、その自分を相対化して神の如く見つめているまた別の自分とがいることに気付いていた。
博斗の眼前には、シータが立っていた。
シータの黒い鎧はなお黒く光り、博斗は、その黒い光沢をじっと見つめていた。
シータは、およそシータにあるまじき行動を着々とすすめていく。
(な、なにをしているんだ!?)
声が出ない。
シータはまず、頭をすっぽりと覆い、素顔を隠し続けて来た仮面を、ライダーがヘルメットを脱ぐときのように、少し首を傾げながら脱いで投げ捨てた。
カンカンと乾いた音がして、仮面はどこかに転がっていき、そのまま消え失せた。
やや黒っぽい栗色の長髪が、静かに背中に流れた。恐るべき力を秘めた戦士とは思えない、繊細な稲穂の顔立ちがあらわになる。
美しさと愛らしさの同居した不可思議な顔立ちだ。
いまさら確かめるまでもなく、博斗はこの顔に惚れている自分を自覚していた。
男は同時に複数の女を愛せるものだろうか?
いまの博斗にはイエスとしか答えようがない。
ただそのそれぞれへの愛のカタチが違うのだ。
あの五人への愛は、むしろ父親としてのものに近いような気がする。
ひかりへの愛は、愛というにもまだ足りない重さを感じるが、しかし、なにか、二人が結ばれるという結論に行き着かないのではないかと思わせるものがある。
運命あるいは使命、そういったものによって定められた愛であり、同じ志を、同じ運命を分かち合う同志としての強い結束を感じる。
それがいまの博斗とひかりにとって、男女としての結びつきに達するのかどうかというと、よくわからない。
そうなるには、あまりに博斗もひかりも大人になりすぎているように思える。
しかし。
五人の誰に対してもひかりに対しても、それほど耐え難く抱くことのなかった熱望を、ことシータに対しては、強く抱いてしまう。
シータが姿を消してからというもの、日に日にシータに対する想いが高まっていくのが博斗にはわかった。
シータに対する感情は、久しく博斗の抱いていなかった新鮮なものに思えた。
手が届く寸前のところまで行くと、またするりと抜け去っていく。
博斗にとってこんな想いをした経験は、相当さかのぼらなければあるはずもなく、望との恋愛ごっこよりもさらにうぶなものに思えた。
それはおそらく、シータのもつ二面性のうち、稲穂の面が、あまりにも未成熟な人格を示しているからであろう。
保護欲を駆り立てるのだ。
シータは強い戦士であり、完成された強さという点においては尊敬にすら値する。
だがそのシータが仮面を脱げば、遥たちと同じ高校生はおろか、中学生かあるいはそれにも満たない程度の情緒しか持ち合わせておらず、新しい感情が次々開花するたびに驚き戸惑うのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます