遥は陽光中央病院にやってきた。


しばらくして、パタパタというサンダルの音が聞こえたかと思うと、廊下の向こうから望がやってきた。


「珍しいのね。遥がここに来るなんて」

「まあね。ちょっと、お願いがあって」


遥は、中央病院に、高藻山で大蛇に噛まれて入院した患者がいるという噂について、望に話した。


「それがどうしたの?」

望は愛想なく言った。


「いるのね?」

「いたら、どうするの?」

「その人から話を聞く必要があるわ。どうしても」


望は、遥の顔をまじまじと見つめていたが、急に笑い出した。

「はいはい。いいわ。ほんとはいけないんだけどね。そういう顔をするからには、わけがあるんでしょうから」

「あ、ありがとう、望さん」


「でも」

望が釘を刺した。

「なに?」

「危ないことをしてるんじゃないでしょうね?」


「まだわからない。これから危なくなるかもしれないけど、でもこのままほうっておくともっと危ないことになるかもしれないから、その、えーっと…」


「しょうがないわね、ほんとは駄目なのよ」

望は、やれやれという顔で遥を見ると、ウインクした。


二人は、エレベーターに乗り、上の階に向かった。


「やっぱり、今度のことも、遥達がやっていることに関係がある事件なのかしらね?」


遥は首を傾げた。

「う~ん。まだわかんないわ。ただ、血が騒ぐっていうのかな? きっとそうだっていう感じはするの」


「そう」

望は、いったん言葉をきった。エレベーターに、他の医師が乗り込んできたからだ。


エレベーター特有のどことなくギクシャクした沈黙を経て、望と遥は、五階で外に出た。


「ここだけの話ね、私も変だと思うのよ」

望の声は、ささやくように控えめになっていた。


「だってねえ、自分より大きな蛇だっていうのよ? ショックで精神が錯乱しているのかと思ったけど、でも噛まれた跡が、確かにすごいの。あら?」

望が首を傾げた。

「誰かしら?」


廊下には、先客がいた。

壁に背をもたれるようにして、大学生ぐらいの男が、床に座っている。

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