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小さな料理バサミでなんとか爪を切り、ゴムバンドでくるくるの髪をしっかりと後ろにまとめて、翠は裏手にあったロッカーから出した割烹着を着こんだ。
流しの下から大鍋を出し、よいしょとコンロに乗せた。ヤカンに水を入れて、蛇口と何往復かして、鍋に水を張った。
「とりあえず、なんでも煮ちゃえばどうにかなりますわよね?」
翠は一人ごちた。
そして、まな板に並んでいる野菜達を見た。ニンジン、ピーマン、タマネギ。
これを、見てもわからないぐらい小さくしてしまえばいいということだ。探してみたが、残念ながらジューサーミキサーがなかったので、やっぱり包丁を使うしかないみたいだ。
翠は、包丁を握り締めて、野菜に向かった。
なにか、忘れている気がする。
「お姉ちゃん、まず野菜を洗うんだよ。僕、ときどきやらされるんだ」
「あ、なるほどですわ」
翠は包丁を置き、野菜を流しに持っていった。
さて。しかし、洗うといっても、どうやって洗うのか。
クレンザーと石鹸が翠の目に入ったが、いくらなんでもこれは使わないだろう。
うーんとしばらく考え、翠は、タワシを使ってジャガイモの皮をゴシゴシこすり始めた。
ひとまわり小さくなった野菜達を抱えて、翠は再びまな板に戻った。
翠だって、料理番組の一つぐらいは見たことがあるが、それでも、この野菜達をどうやって切ればカレーライスに入るあの野菜の形になるのか、よくわからない。
しかたない、駄目で元々と翠は切り始めた。
「切る」というより「斬る」だ。
玉次郎がおかしな音に気付いて振り向くと、翠が髪を振り乱しながら、スパコーンと、ナタみたいな包丁を振り上げては降ろし、振り上げては降ろしているのが見えた。
玉次郎は、小さい頃に聞かされた鬼婆の話を思い出してぞっとした。
大人って、怒らせると怖いのかも。
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