6
翠は桜を見習って、遥に反対を向かせると、ぐいぐいと押した。
「なに、なに?」
正気に返った遥は疑問を連発した。
「いいから、こっちですわ!」
「そうはさせんぞ!」
怪人のだみ声が響き、翠が振り向くと、紅い光線が飛び出すところだった。
「ひ! わ、わたくし、野菜なんかになりたく…!」
「ほら、行った!」
桜はどこからか小型の銃を取り出し、翠に向けて撃った。
「ひ、ひぃぃぃぃえええっ…って、あ、あらら?」
翠はショックでぽーんと大きく弾み、すでに走り出していた博斗と遥の少し先までふわふわと流されていき、少しずつ高度を下げて地面に降りた。
「おうっ、どこから出てきたんだ、翠君?」
博斗はたまげて目をむいたが、翠本人はもっとたまげていた。
「とりあえず、俺達はどうしたらいいっ?」
走りながら、博斗が聞いた。
「ほっとけばひかりさん達がどうなっちゃうかわからないからな、あんまり時間もない」
「わたくしが、なんとかしてみせますわよ」
「ほんとに?」
「ほんとですわ」
ああ、どんどん深みにはまっていく。
あ、そうですわ!
そこらへんのコックを片っ端から集めればよいのですわ。そうすれば一人ぐらい、野菜料理の上手な人ぐらいいるはず。
翠は我ながらこのグッドなアイディアに惚れ惚れした。
しかし、怪人も、まったくの馬鹿というわけではなかった。
博斗と遥を生徒会室に残し、単身ひそかに街に出た翠だったが、定食屋も、弁当屋も、パクドナルドも、ロイヤルホステスも、駅の立ち食いソバも、どこもかしこも、すでに怪人に先回りをされていた。
どこに行っても、出くわすのは野菜にされてオロオロしている人間達ばかり。
ぱっと電球が点ったように思いついた翠は、暁を呼び出してみたが、なんたる失態、暁は翠の元に来るまで向かう途中、ものの見事にタケノコに変えられてしまった。
翠は、陽が暮れた公園で、ブランコに腰かけて考えた。
こうなったら、自分でなんとか料理をつくってみるしかないのだろうか?
しかし翠は、自慢じゃないが、小学校の調理実習のときまで、サラダという名前の野菜があると信じていたぐらいの料理音痴だ。
出来るはずがない。
でも、自分がやらないで他に誰がやるの?
自分のついた嘘がもとになっているわけだし。
でも、出来るはずがない。
どうすれば、いいの?
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