翠がブランコをキーキー言わせて足をぶらつかせていると、なんだかどこかで聞き覚えのある声が後ろからした。


「どうしたい? おじょうさん?」

「あら、たまちゃん」


「美人が悲しい顔をしちゃあいけねえな。ほら、おてんと様だってそう言ってるぜ」

「もう沈みましたわ」

「ぐきっ」


「あのね、わたくしはいま、子どもの遊びに付き合っている暇はありませんの。さっさと家に帰ったほうがよろしくてよ」

「へっ。甘いな。おいらにゃ帰る家がねえのさ」


「わたくしはもっとたいへんなのですわ。ぐたぐた言ってないで、さっさと帰りなさい」


玉次郎はひょこひょこ歩くと、翠の隣のブランコに立ち乗りして、少しだけ動かした。


「お、そうか、おいらが旅に出たわけかい? でも、そればっかりはいくら聞かれても答えるわけにはいかねえな」

「誰も聞いてませんわよ」


「そうか、そこまで聞くんだったら、しょうがねえ」

「だから、誰も聞いてませんわ」


「男、高倉玉次郎がどうしてふーらいぼーになっちまったか、そのわけ、一度しか聞かせてやらねえからよう、耳の穴かっぽじってよっく聞きやがれい!」

後半はもう支離滅裂だったが、玉次郎本人はまるで気にしていなかった。


「はいはい」

もうあきらめ半分で、翠はしかたなく玉次郎の話を聞いてみることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る