「ぶうおえあっ!」

博斗は自分がいままで眠っていたことにいまさら気付いて、手をばたつかせてもがいた。


寝汗をかいていたらしい。少しシャツがべとつく。

そういえば、いまこうして目が覚めたのには、ちゃんときっかけがあったような気がする。なにかの音がした。


自分がどこにいるか思い出した。

司令室だ。


警報が鳴っている。

そうか、これが目覚めた理由だ。

博斗は頭を振り振り立ち上がると、コンソールに向かった。


ドアが開く音がして、ひかりが入ってきた。

「キャップ? 怪人が…」


博斗はうなずき、二人は並んで立ちモニターを凝視した。


モニターがサーチしたのは、学園から見て陽光中央駅とは反対側、陽光海岸駅方面の住宅地の一角だ。


「いた」


ガードレールで守られた歩道を、青いコスチュームに包まれた男たちが我先にと走り、なにごとかと後ろを向いて驚愕した老婦人に襲いかかった。


怪人は、フォークだ。

三つ又の先端部分が頭部で、例によってフォークから手足が生えている。


「くらえ、野菜化光線!」

怪人が右手を振ると、紅い嫌な感じのする光線がまっすぐに放たれた。


光が消えると、老婦人の顔は、おそるべき変貌を遂げていた。

老婦人の顔が、頭が…。

ト、トマト?


「なんだぁ? おばさんがトマトになっちまった?」


「野菜化光線を浴びると野菜になってしまうようですね」

ひかりが冷静に言った。


「なんのために? そんなことをしてどんなメリットが?」

「さあ?」


博斗たちが悩む見る間にも、怪人達は、トマトおばさんをその場に残し、勇んで再び前進を開始した。


「野菜化光線!」

怪人が呼ばわるたびに、野菜人間が次々とつくり出されていく。


「このままにするわけにはいかない! ちっ! 目で見てるのに手が届かないなんて!」

博斗はじたんだを踏んで悔しがった。


そのもどかしさをさらに高める出来事が起きた。


「キャップ、怪人が、消えます!」

ひかりが、一語一語切るような発音で言った。

戦闘員が、上から下へと霧を吹き飛ばすように次々に姿を消していき、怪人の姿もまた消えていった。


怪人の行方をスキャンしていたパネルからも、光点がすっかり消えてしまった。


「見事に気配消されちまった」

「どうします?」


「また現れるに決まってるからな。陽光市のどこかにいるはずだ。彼女たちにも頼んで、捜そう」


博斗はひかりにウインクした。


ひかりはそのウインクに、いままで幾度となく感じてきた胸の高鳴りを覚え、しかしまた、幾度となくそうしてきたように、胸を押さえ呼吸を落ち着け、博斗にそうとは気取られないように取り澄まし、うなずいた。

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