3
「ぶうおえあっ!」
博斗は自分がいままで眠っていたことにいまさら気付いて、手をばたつかせてもがいた。
寝汗をかいていたらしい。少しシャツがべとつく。
そういえば、いまこうして目が覚めたのには、ちゃんときっかけがあったような気がする。なにかの音がした。
自分がどこにいるか思い出した。
司令室だ。
警報が鳴っている。
そうか、これが目覚めた理由だ。
博斗は頭を振り振り立ち上がると、コンソールに向かった。
ドアが開く音がして、ひかりが入ってきた。
「キャップ? 怪人が…」
博斗はうなずき、二人は並んで立ちモニターを凝視した。
モニターがサーチしたのは、学園から見て陽光中央駅とは反対側、陽光海岸駅方面の住宅地の一角だ。
「いた」
ガードレールで守られた歩道を、青いコスチュームに包まれた男たちが我先にと走り、なにごとかと後ろを向いて驚愕した老婦人に襲いかかった。
怪人は、フォークだ。
三つ又の先端部分が頭部で、例によってフォークから手足が生えている。
「くらえ、野菜化光線!」
怪人が右手を振ると、紅い嫌な感じのする光線がまっすぐに放たれた。
光が消えると、老婦人の顔は、おそるべき変貌を遂げていた。
老婦人の顔が、頭が…。
ト、トマト?
「なんだぁ? おばさんがトマトになっちまった?」
「野菜化光線を浴びると野菜になってしまうようですね」
ひかりが冷静に言った。
「なんのために? そんなことをしてどんなメリットが?」
「さあ?」
博斗たちが悩む見る間にも、怪人達は、トマトおばさんをその場に残し、勇んで再び前進を開始した。
「野菜化光線!」
怪人が呼ばわるたびに、野菜人間が次々とつくり出されていく。
「このままにするわけにはいかない! ちっ! 目で見てるのに手が届かないなんて!」
博斗はじたんだを踏んで悔しがった。
そのもどかしさをさらに高める出来事が起きた。
「キャップ、怪人が、消えます!」
ひかりが、一語一語切るような発音で言った。
戦闘員が、上から下へと霧を吹き飛ばすように次々に姿を消していき、怪人の姿もまた消えていった。
怪人の行方をスキャンしていたパネルからも、光点がすっかり消えてしまった。
「見事に気配消されちまった」
「どうします?」
「また現れるに決まってるからな。陽光市のどこかにいるはずだ。彼女たちにも頼んで、捜そう」
博斗はひかりにウインクした。
ひかりはそのウインクに、いままで幾度となく感じてきた胸の高鳴りを覚え、しかしまた、幾度となくそうしてきたように、胸を押さえ呼吸を落ち着け、博斗にそうとは気取られないように取り澄まし、うなずいた。
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