「いやー、一時はどうなることかと思ったわ。助かった。あたしもゴキブリだけは駄目なのよねー」


「うんうん。よくやったね、メイドグリーン。かっこよかったよ」

桜は、立ち上がったメイドグリーンの頭を撫でた。


「ア、アリガトウ、桜サン」


「!?」

翠は目を疑って、ごしごしとこすった。なんだか、いま、メイドグリーンが赤面したように見えたけど…。


「照れるなって、グリーンちゃん」


やっぱり赤面している。

桜のつくるメカというのはどうしてこう、変なところにこだわるのかしら。


おまけに、話を聞く感じだと(ロボットに性別があるとすれば)男らしいのに、どうしてエプロンとカチューシャまでしているわけ? まったく、理解不能ですわね。


翠が肩をすくめていると、その表情に気付いたか、桜がにやにやと笑った。

「メイドグリーンはね、見た目はロボットだけどね、でも、ただのロボットじゃないよ。ただのロボットじゃないって言っても、原価が1980円とか、そういう話じゃないよ」


「そんなこと聞いていませんわ」

「ガーン」

メイドグリーンが頭を抱えてたそがれた。

「ボ、ボクハ1980円ダッタノカ…」


「じ、冗談、冗談だってば、グリーン」

桜は落ちこんだメイドグリーンの頭を撫で撫でした。まるで、親子みたいだ。


「と、まあ、こんな感じよ。桜が創ったメカにはちゃんとハートがあるみたいね。あたしのレッドアローも、走りたがってうずうずしてるときがあるもの」


そう言って、遥は翠に奇妙な視線を送った。

「ひょっとしたら、メイドグリーンのほうがあんたより役に立つかもよ?」


「な!」

翠は噴飯した。

「そんなことあるはずがないじゃありませんの!」


「だって、翠、なにが出来るの?」遥が聞いた。

「え?」


「メイドグリーンはなんでも出来るのよ。料理、洗濯、害虫駆除、生ゴミのリサイクル…。それから、なんだっけ、桜?」


「え? 体内に二十六の武器が仕組んであるんだ。もしものときには僕らを守って戦うことも出来るように。ね、グリーン?」

「ハイー」


「と、いうわけ。いっつも文句ばっかり言ってる翠よりずっといいわ」

「なんですってーっ!」


「なんてね、冗談よ、翠。人間、なんか一つぐらい取り柄があるもんだわ。料理が出来なくても洗濯が出来なくても、拾ってくれる男の人の一人ぐらい、どこかにいるわよ。巨乳好きな男って多いし」


「な、なんだか、まったくフォローされていない気がするのですけれど?」

「フォローしてないもん」

「ムキーッ!」


翠は、鼻から息を吸いこんで、バンと机を叩いた。積まれていたファイルが反動で跳ねた。

「わたくしにだって、料理の一つや二つ、お手のものですわ」


「夏合宿のときバーベキュー焦がしたの誰だっけ?」

「カップラーメンにお湯を注ぐのは料理とは言わないのよ?」


「あ~ら、そんなことを言ってますと、後悔しますわよ。わたくし、暁からみっちり指導を受けて、和食フランス中華にイタリアンもうなんでもオッケーなのですから」


ちょうどそのとき、生徒会室のドアが開き、由布と燕が入ってきた。


由布はこの数日、燕につきっきりで、燕が少しずつだが自分を取り戻す様子をじっと見守っていた。


遥は、由布となにかを話し始め、そのため、翠の料理に関する追及は止まった。


翠は、ほっと胸をなで下ろし、同時に後悔した。


またやってしまった。意地を張ってしまった。見え透いた嘘を言ってしまった。

どうしてこう、素直になれないのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る