9
「人か? 俺達以外にも人がいる?」
博斗とひかりはゆっくりと立ち上がった。
霧を抜けて、黒い影が姿を現した。
男だ。
「驚いた。人間だ。こんなところにも人間がいるのか?」
男は言った。
そしてしげしげと博斗達を眺めている。
「こっちこそよかった。誰もいなくなったかと思ってたからな。それで、君は誰だい?」
男は、答えずに、唇を舐めた。
「上級二匹。俺は『外れ』らしい。ま、仕方ない。それならせめて、お前達を片づけてやるさ」
「ん…?」
博斗は神経を尖らせた。妙な感覚が張りつめてきた。
「は、博斗さん…ひょとすると…」
ひかりが、かすれた声を上げた。
「やっぱり、そう思います? この感じは…」
博斗はひかりをしっかりと背中にまわし、すり足で後退した。
「…気っ!!」
男が猛って叫びながら、両腕を突き出した。
霧がざわめき、そして千切れて消し飛んだ。
やや遅れて、圧縮された空気の塊が飛んできた。
とてもよけられないと思ったが、博斗の後ろからひかりが手を伸ばし、塊を弾いて反らした。
塊が飛んでいった場所だけ霧が押し潰され、一瞬、正常な空間が見えた気がした。
博斗の髪が風に煽られて乱れ、服がバタバタとはためいた。
「いきなりなんなんだこのガキは! お前が怪人なのかっ?」
男は眉をひそめた。その表情は奇妙に無表情だった。
「怪人? 笑わせるな。それはお前達のことだろう?」
男が左手を振り上げて、指を複雑に折りたたみながら、博斗達を指差した。
「威っ!」
地面が隆起した。アスファルトが、干ばつした大地よろしくメリメリと割れ、砕け散りながら舞い上がった。
博斗は足をとられ、前のめりに転倒した。
ひかりと手が離れた。
こんもりと小山になった地面からそのまま転げ落ち、博斗は左手をついて立ち上がった。
男は、小山の反対側に転倒して片膝をついているひかりに向かって走っていた。
素早い。
戦い方をよく知っている人間の動きだ。
博斗は躊躇せずにグラムドリングを取り出し、左手で握った。
「どうか外れませんように」
と、小さく祈り、博斗は、ぼっと白光の弾を飛ばした。
男は慌てて両手をふりかざして一声あげると、白光をばしんと弾き飛ばした。
博斗はグラムドリングを手にして立った。
剣として使わなければ左手でもそこそこ使えるみたいだ。
男は白光を弾いたときに手に軽い火傷を負ったらしく、手を開いたり閉じたりしながら見つめていたが、ぽつりと言った。
「まずったな。どうして他の俺じゃなくて俺のところに限ってお前みたいなのが出てくるんだ?」
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