由布はふと立ち止まり、白いため息をはいた。

どうしようというのだろう。来るつもりはなかったのだが、気がつけば足がふらっとにこにこ銀座までやってきていた。


由布の目の前には菓子屋があった。こんなところに菓子屋があったのかどうか、あまりよく思い出せなかった。

なぜか、心惹かれる。


木の枝をあしらったデザインの取っ手をひき、そっと中を覗いてみた。

三メートル四方ぐらいの狭い店。客はいない。

店内にもショーケースがあり、おいしそうなケーキが陳列されている。菓子屋ならではのやや甘い香りが鼻をくすぐる。


ショーケースの向こうに、店員らしい若い男が立ち、営業スマイルを浮かべて由布を見つめている。


「あの…」

そっと由布は声をかけてみた。


「はいな!」

「これ、一つください」


由布は、腰を屈めてショーケースに向かい、手のひらに乗るぐらいの大きさの缶入りのチョコレート詰め合わせを指差した。


「それで…」

由布は、真っ赤になって言った。

どうしてこんなに恥ずかしいのだろう。

「つ、包んでもらえますか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る