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「…というイベントなのですよ」
ひかりは、向かい側の円椅子に座っている稲穂に、バレンタインのならわしを話していた。
もっとも、ひかり自身、急ぎで仕入れた知識に過ぎないのだが。
「よくわからない。なんの意味があるのかしら」
稲穂は首を傾げた。
「元々がどういういきさつで始まったにせよ、いまは、男女が気持ちを確かめ合う一つの儀式のようなものになっているようですね」
「それで、わたしにどうしろと?」
「興味はないのですか?」
ひかりは意外そうな顔をして言った。
「ええ」
「博斗さんに、チョコをあげてはいかがです?」
「わ、私が?」
稲穂は見ているひかりが可笑しくなるほどに狼狽した。
「じ、冗談はよ…してください。あなたこそあげればいいでしょう?」
「私はもちろん、ささやかなものでも渡すつもりですけど。むしろ、あなたでしょう? 博斗さんに、自分の気持ちを伝える一つの象徴として、どうです?」
稲穂は表情を歪め、ひかりをちらと見て、絞り出すように言った。
「…考え、させてください」
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