「みんな全部入れた?」

「オッケー」

「さ、進行してください、博斗先生」


博斗はびくびくしながら言った。

「じ、じゃあ…いいか? 闇鍋なんだからな。一度箸でつまんだら鍋に戻してはいけない。どんなものでも食べること」

「はいはーい」


言ってしまった以上、博斗にもそのルールは適用されるのだ。

嫌だなあ。「タマ」だけはつまみたくない。


「では、箸を伸ばして、それぞれ一品目をつまみなさい」

言い終わると博斗は箸を出し、鍋の中を探った。とりあえず小さ目のものにしとけば、少なくとも「タマ」は回避できるはずだ。


「よし、取った!」

博斗は小さな塊をつまんだ。恐る恐る口に運び、えいままよと放り込んでみた。


「!!!!????○$◆*▽%〆~~~~~~~っ!」

喉の皮と放りこんだ物がくっついて、熱いやら冷たいやらとにかく恐るべき痛みが喉を襲った。


「誰だ~、ドライアイスなんて入れた奴はっ! 人を殺す気か!」(※よい子のみんなは真似しちゃ駄目だよ)


「そんなことより、先生。なんか変なんですけど。あたしのつかんでる奴、なんか全然こっちに来ないんです」

「あら、わたくしのもいくら引っ張ってもわたくしのところまで来ませんわ」

「なにか、変ですね…」


「わかった、わかった。なにがどうなってるのか、電気を点けてみよう」

博斗は立ち上がると、だいたいの見当をつけながら壁に近づき、部屋の明かりを点けた。


「器用なことしてるな」

五人が、同じモチの違う部分を箸でそれぞれつまんでいた。


「そういうことなら、わたしは遠慮します」

由布がにっこり笑って箸を引っ込めた。


「そ、そうだね。こ、こういうことになっているんだったら、ぼ、僕も遠慮しとく…」

意外にすんなりと桜も引っ込んだ。


「ふん、ふーんっ!」

燕が少し力をこめて引っ張ると、モチが「うにーーーっ」と伸びた。


「ち、ちょっと、一人占めはよくないわよ!」

遥も負けじとモチを引っ張った。


「ふ。たかがモチ一つにあさましいですわね」

と言いながら翠もがっちりとモチをはさみこんで逃がさない。


「たあ!」

燕がひときわ大きい声を上げてモチを引っ張ると、ついにモチがぶちっとちぎれ、見事に五つに分かれて五人のそれぞれの椀にちゃぽんと飛び込んだ。

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