そうだ。幹部と言えば…。

博斗は空を見上げた。


博斗には、シータが死んだということがどうにも信じられなかった。

敵なのだから、消えてうれしいはずだが…あまりそんな気分がしない。


シータとは…もう少しでわかりあえたんじゃないのか?

あの仮面の下にどんな顔があったんだ? どういう生き方をしてきて、あんな奴になったんだ? なぜときどき不可解な行動をとったりしたんだ?


疑問は次々に湧いてくるが、一つとして答えは出ない。

オシリスとして持っている記憶を探しても、シータは、剣を振り回して戦場を駆ける悪魔のような戦士だということしか覚えておらず、ろくな役に立たない。


人間がお互いに理解し合えるかどうかには、あるところに決定的な境界線があると思う。

どう努力したところで理解し合えない組み合わせというものが、どうしても存在する。

二人の間に完全な壁が立っているのだ。


だが、シータについてはどうもそうは思えない。

博斗が思うに、シータと博斗の間には壁があるのではなく、ただ単に、背中を合わせてお互いに正反対を向いているだけなのではないだろうか。


壁はない。

そして、距離もきわめて近い。ただ、向いている方向が違うだけ。


そんな気がしているからこそ、なんとなくシータの死を素直に喜べないのかもしれない。

憎らしい攻撃を繰り返した敵でありながら、博斗は、シータの死が切なかった。やりきれないことだった。


戦いなのだから仕方がない。こっちが死なないためには相手を殺すしかない。

それが、戦いというものだ。だからこそ空しい。

戦う以外に方法は、なかったのか?


博斗はポケットから手を出し、頬をぺちぺちと叩いた。

せっかく一年が終わって新しい年になろうとしているときなのだ。あまり陰鬱になることを考えるのはやめたい。

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