12月24日がやってきた。


朝から雪が降り続いている。

この辺りにしては珍しくどかどかと降り、また正午もまわっていないというのにすでに街は一面銀世界。


いつもならこんな大雪が降ると、街そのものが凍えたように静かになるものだが、イブの今日はそれどころではない。


陽光中央駅前の大きなクリスマスツリーは、雪と電飾で幻想的にデコレートされ、街のいたるところにあるその弟分のツリーもそれぞれ白と緑の鮮やかな対比で飾られている。


街のあちこちにサンタクロースの格好をしたサンドイッチマンがいる。

それにしても…博斗は街を歩きながら思った。

いくらなんでもずいぶんとサンタクロースが多い気がするが。

角を曲がるたびに一人は見かけるように思う…。


それにこの雪。

ホワイトクリスマスなんてのはお話の中だからいいんであって、実際はとてもロマンチックもへったくれもない。歩きにくいし寒いしロクなことがない。

まあ、子ども達があちこちで雪遊びをしているのを見ると、そんな憂鬱な気分も多少は薄れる。


陽光学園に着くと、博斗は司令室に直行した。

生徒会室には五人が待っていて、博斗は司令室でサンタクロースに変身して生徒会室にお邪魔するという算段である。


司令室の博斗は、腕組みをして鏡を見つめていた。

手元には桜から渡された二本の瓶。


赤いラベルの瓶が「超育毛剤」で、青いラベルの瓶が「超脱色剤」だそうだ。

これを使って、白髪のひげもじゃ老人になれということらしい。


歯の裏側には、超小型変声装置まで取り付けられてしまい、いまの博斗は、よぼよぼのしょぼしょぼな声しか出ない状態である。


いざ瓶を開けようとすると、ビービーとアラームが鳴った。

「んだ、もう!」

博斗はモニターを見た。


にこにこ銀座の一角に、サンタクロースの一団が集い、ひときわ体の大きい一人のサンタクロースを囲んでいる。

その真ん中にいるサンタクロースが両手を突き出すと、そこから白い雪がごうごうと吹き出し、辺りを急速に白く包みこんでいく。


サンタクロースのそばを歩いていた子どもたちがどっと駆け寄ってきた。

「サンタさん、雪はもういいよ。寒いよ。なんかプレゼントちょうだい?」


「駄目だ。お前達には、もっと雪をくれてやる。そうら!」

サンタが手を前に突き出した。


びゅおっと吹雪が吹き荒れ、目の前にいた何人かの子どもたちを一瞬で氷づけにしてしまった。

博斗は立ち上がった。間違いない。あのサンタは怪人だ。


生徒会室に飛び込んだ博斗は言った。

「みんな、パーティーは後回しだ! 怪人が出た! 場所はにこ銀。怪人はサンタクロースだ。子どもたちを氷づけにしている」

博斗はてきぱきとわかりやすく伝えた。


「ウソだ!」

燕が言った。

「ウソだよ! サンタさんはそんな悪いことしないもん!」

燕は悲しそうな顔をして叫ぶと、博斗を突き飛ばし部屋を出て走り去ってしまった。


「燕、待って!」

遥は燕の後を追いかけようとしたが、博斗の手が遮断機のように降ろされてその行く手を遮った。


「怪人を倒すのが、最優先だ。燕君も、きっと怪人のところに行く。あの子はそういう子だ。だから君たちは現場に急行するんだ。そして、もし燕君が無茶するようなことがあれば守ってやれ。いいなっ?」

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