「ここだ!」

グリーンが、一つだけ奥にへこんでいるブロックを探り当て、静かに手を触れた。

すると、例によって壁が開き、石に覆われた明るい部屋が姿を現した。


一人目の神官の部屋とそっくりだ。

四面を覆うレリーフ。

中央に位置する大きな石像。


「これが、二人目よ。いままでみたいに、ちょちょんとやっつけましょ!」

「もちろん!」


五人が戦闘隊形をとると、それを察したか、石像の声が五人の頭のなかに伝わってきた。

(我が名は、デシューツ。汝ら、我が力となれ)


「お断りよっ!」

声を出して返事を返したレッドは、イエローと並んで飛び出し、神官デシューツに第一撃を加えた。


だが、デシューツの体にはヒビ一つ入らず、巨大な腕が不自然なほど敏捷に動くと、左右からレッドとイエローをそれぞれとらえ、サンドイッチのように二人をぶつけ、ぽいと放り出した。


「あいつ、バリヤーは張らなかったけど、代わりにとんでもないパワーね。おまけにあの体の硬さ!」


「ひかりさんの話だと、四神官は、ムーの四人の幹部、つまり、シータ、ピラコチャ、ホルス、イシスの力をコピーしたようなものらしい。たぶん、さっき倒したバリヤー神官はホルスかイシスで、今回のこいつは、ピラコチャのコピーなんだよ」


「すると、どうすれば倒せるんですの?」

「わたし達に求められるのはスピードとしつこさでしょう。致命傷にならなくても少しずつ傷口を広げていく建設的な攻撃ですね」


「おっけー、そうとわかれば、やっちゃうもんね」

ブルーが袖をまくりあげるような仕種をして進み出ようとした。


だがそこで、強烈な殺気を肌で感じ、思わずぞっと全身を震わせた。


「フハハハハハハハハハッ!」

聞くものを震撼させるけたたましい笑い声とともに、通路から白い塊が飛び出し、五人の間を恐怖とともにすり抜け、神官と五人の中間の位置で止まった。


白い塊と見えたのは、白いマントで顔まで全身をすっぽりと隠していたためであった。

マントのために上から下まですべて白に覆われ、全身から放たれている強烈な気配とあいまって、神々しささえ感じさせた。


白いマントがはらりと崩れ、その顔が明らかになった。

そこに人間の顔は存在せず、真っ白に磨き上げられた人間のしゃれこうべがあるだけだった。


「ドクロ…」

レッドはつぶやいた。

レッドの目を惹いたのは、その顔を覆うドクロよりも、ドクロの口が加えている一輪のヤマユリの花だった。


「あの花…さっきの!」

ブルーが声を上げた。


レッドは、わずかに体が震えていたが、無理に抑えて一歩前に出た。

「あなたは、誰?」


白マントは、口からヤマユリを抜くと、マントに差し込んだ。

しゃれこうべがかたかたと顎を揺らした。

「名前はない」


「じゃあ、目的はなに?」

「スクールファイブを助けに来た」

「なぜ助けるの?」

「理由はない」

しゃれこうべの動きが止まった。


白マントは振り向くと、神官の正面に対した。

「先に行くがいい、スクールファイブ。この石ころは私が始末しよう」


どうする、と言いたげに、四人がレッドを見た。

四人はレッドの言葉を待っている。


「先に行きましょ」

四人はうなずいた。


部屋の中央で静かに対している白マントと石像を横目に、五人は部屋の反対側に移動し、新たな通路への扉を開いた。


ブルーが、扉をくぐるときに振り向き、白マントに声をかけた。

「ばいばーい、しらゆりかめんさーん」


四人は面食らってブルーを見た。

「なによそれ?」

「名前があったほうがいいでしょ?」


「…ったく。敵か味方かもわかんないのに」

グリーンは言った。

「そうですね。いったい何者か…。あんな力の持ち主がいるなんて。見ているだけでくじけそうでした」

「まったく。寒気がしましたわ」


レッドは、なにも答えなかった。シータを倒したことで浮かれていた自分が悔しかった。

もっと、もっと強くなりたい。もっと、強くならなくちゃいけない。

その想いが、レッドの心を満たしていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る