オシリスは、薄汚れた褐色の衣をまとい、フードですっぽりと顔を隠すと、夜闇に乗じて塔を目指した。


師は、オシリスが果実酒に仕込ませた睡眠剤のおかげでぐっすりと眠っている。

オシリスは、あらかじめ睡眠剤を無効にする薬を自分だけ飲んでおき、師と同じ酒をふくんだ。

そのため、師だけが眠りにつくことになった。


はじめからオシリスはこの覚悟だった。自分がこの状況を打破するしかない。それが、戦いを始めた、オシリスの責任なのだ。


オシリスは、左手に握り締めた小さな筒を確かめた。

これが、オシリスの唯一の武器だ。

オシリスの感情の起伏と、心の動きに応じて生み出される精神力の刃。


これを使いこなすようになるまで、随分と長い時間がかかった。

この剣を使いこなすということは、それはそのまま、自分の感情を必要に応じてコントロールし、抑えたり、放出させたりするということを意味する。


コントロールを誤り、危うく発狂しかけたこともあったが、しかし、いったん心得ると、自分の手の平が拡張されたような感覚となり、すでに違和感はない。

この感覚は、体が覚えてくれた。もう、忘れることはないだろう。

たとえ、どれだけ時間が流れたとしても。


オシリスは、かすかに光を点す尖塔を見上げた。

四つの輝きが、星と紛れるように輝いている。

目指すはあの塔のうちの一つ。

イシスの塔だ。


眼前には、漆黒の石壁で覆われたシータの塔が見えてきた。

だが、シータの塔はオシリスの目的地ではない。


目を凝らすと、夜闇の中、やや明るい青い影が塔の周りを巡回している様子が見える。

目についた戦闘員は三人だけだが、わずかでも物音がすれば塔の中から無限の戦闘員が飛び出してくることがわかっている。


なんとしてもこのシータの塔をくぐりぬけ、イシスの塔までいかなければならない。


オシリスは、握り締めた剣の柄から、白い小さな光を生むと、オシリスの目指す方向の反対側の地面に狙いを定め、剣を振った。

白い光の塊が柄から離れ、地面まで飛んでいくと、弾けて小さな爆発を生んだ。


戦闘員が文字どおり飛び上がり、それぞれに呼び合いながら、爆発のあった地点に集まってきた。


オシリスは、もはや爆発地点には目もくれず、脱兎のごとく岩陰から飛び出し、全力で駆け出した。

すべては、ここでどれだけ敏捷に行動できるかにかかっている。


荒く息をつくオシリスの背後で、戦闘員の呼び合う声が聞こえた。

オシリスは、振り返りもせずとにかく走った。

シータの塔の外壁を抜け、疾走した。シータの権限のある領域を突破するまでは、息一つついていられなかった。


ついに、シータの塔の黒い外壁が途切れ、前方に、イシスの塔の美しい純白の外壁が飛び込んできた。

イシスの塔を警護する戦闘員達が、駆けてくるオシリスを指差して騒いでいる。


オシリスは、剣の柄を素早くズボンの中に押し込んだ。こんなところまで調べられるとしたら、そのときは運の尽きだ。


オシリスは、息を切らせて戦闘員達の前に飛び出すと、いきなり両手を挙げた。

「はあ、はあ、はあ。もう疲れた。降参だ。参った。もう好きにしてくれ。お前達の親分のところに突き出すんならそうしてもいいぞ」


オシリスはそう言うと、地面にあぐらをかいて座りこんだ。

その途端、がつんと背後から頭を殴られ、オシリスは、意識を失った。

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