2
木造のドアをノックする音がした。
「どうぞ。開いています」
扉がややきしみながら開き、中背の老人が影から姿を見せた。
「ああ、先生」
オシリスは立ち上がると、ベッドの横に寄せてあった椅子の一つを引き出し、師にすすめた。
「あの娘達の戦いはどうかね、オシリス」
「正直に言えば…戦いは芳しくありません。戦闘員は一人一人はたいした戦闘力を持っていないのですが、数が多く、次から次へと新しい人員が補給されるのできりがありません。そうやって疲労したところに、シータとピラコチャがたたみかけるように攻撃をしてくるので、戦線を進めることができないのです」
「みたところ、後退しているようだな」
「ええ」
オシリスは苦々しく言った。
「私の考えが甘かったのでしょう。総帥をこころよく思っていない者は決して少なくないと…そう考えたのが甘かったようです。総帥の生み出したヒエラルキーは強固なものでしたね。私達は味方もなくどんどん追いつめられていくだけだ」
オシリスは拳を机に打ち付けた。
「しかも! しかもですよ。奴等はまだ、どこかに潜ませているはずの精神兵器の一つだって、私達との戦いに使っていないのです!」
オシリスは、きっと顔を上げた。
「しかし、私達の反撃はこれから始まるのです。私たちも、無駄に戦いをしていたわけではありません。これまでの戦いのなかで、宮殿の武装はほぼ理解できました」
「宮殿の地図か」
「ええ。中央にマヌの宮殿があり、四隅に、シータ、ピラコチャ、イシス、ホルスの四人の塔が位置しています。正面突破するには、シータとピラコチャの塔の間を突破する必要があります。しかし、それがいかに困難であるかは、ここまで実証されてきました」
「うむ。シータとピラコチャを相手にするのは利口ではないな。あの二人は鬼神だよ」
オシリスは羽根ペンを取り出し、インクつぼに浸すと、シータとピラコチャの塔を結ぶ線を引いた。
「仮に戦闘員も怪人も、なんらの飛び道具も向こうから使われてこないとすれば、まだシータとピラコチャに勝つことができる可能性は無ではありません。しかし、いまのように彼らの戦力供給が無限に続けられている状態では、このラインを使って内部に行くことはもはや不可能だと思うのです」
オシリスは、こちらから見て宮殿の背後に位置する、イシスとホルスの塔に丸をつけた。
「イシスとホルス。鍵はこの二人の塔です。この二人の塔が、宮殿の戦闘力維持の鍵なのです」
「彼らの塔を叩くためには、シータとピラコチャの塔を突破する必要があるぞ。そのために、直接宮殿を攻撃するように方針を決定したのではなかったかね」
「そう。そうです。しかし…」
オシリスは苦悩した。
「このままでは、いずれ、あの娘達は、戦いに敗れ、命を落とすでしょう」
オシリスは頭を抱え、うめいた。
「私は、それが怖いのです。私は、あの娘達を愛している。見殺しには、できないのです。だから、賭けに出ます」
「賭け?」
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