10

「おおぅっ! ここには俺の兄弟がたくさんあるぜぇっ!」

こんもりと積まれた生ゴミとダンボールの山をみて、ゴミムーは歓喜の声を上げた。


戦闘員が、自動販売機の横の、空缶で満杯になったゴミ箱を指差した。

「ようし、ゴミを荒らせ、散らかせ、街をゴミで一杯にしやがれっ!」

ゴミムーは腕を天高く突き上げた。


じきに、あちこちで悲鳴が上がり始めた。

買い物に来た主婦達が、戦闘員に襲われ、地面に倒れる。クレープを食べていた女子高生たちは、頭を抱えて建物の影に隠れた。


「荒らせ、散らかせぇ!」

ゴミムーは踊るようにして駐車場を抜け、店の前にあるゴミ箱を次々に倒し、食べカスやビニール袋を散乱させた。

なんともいえない甘酸っぱい不気味な匂いが辺りに漂う。

「これだ、この臭いなんだぁ!」


ゴミムーはさらに勢いにのり、店のショーウィンドウに向けて手を振り払った。

「ゴミレーザー!」

途端に、ショーウィンドウのガラスが粉々に砕け散った。

店内に悲鳴がこだまし、慌てて店を飛び出した何人かの店員が、戦闘員に頭を殴られ気絶した。


「もっとやれ、汚せ、乱せ、メチャメチャにしろっ!」

ピラコチャは、まかり通る戦闘員達とゴミムーを見ながら、げらげらと笑っていた。

「そのうちまたスクールファイブが現れる!」


駐車場の脇にある側溝の蓋を剥がそうとした戦闘員の頭に、こつんと小さな何かが当たった。


「ムー?」

戦闘員は頭を抱え、地面に転がっていく、頭にぶつかったものを見た。100円カプセルだ。


戦闘員が、きょろきょろと見回すと、その視界に、ランドセルを背負った少年の姿が飛び込んできた。

黒いランドセルを背負った少年が、ぐいぐいと裾を引っ張る赤いランドセルの少女を背にして、仁王立ちしている。


「や、やめろっ! ゴミをちらかしちゃいけないんだぞ!」

少年が言った。


「お、おやめなさいよ玉次郎! ほ、ほっとくべきですわ、あ、あ、ああああああんなの!」

少女はぐいぐいと少年の裾を引っ張り続けている。


戦闘員は、全身青いスーツに包まれているため、表情が変わることもないのだが、明らかに腹を立てた様子で、ずんずんと二人に近づいた。


少年と少女は、明らかにおびえ、身動きが出来ずにいる。

戦闘員は、少年の正面に立つと、手に持った金属の突起状の武器を振りかざした。

「ひっ!」

少年が、目をきつく閉じた。


「そこまでよ!」

どこからか飛んできた物体が、戦闘員の手から凶器を弾いた。

「ムーっ?」


そして、続けて飛んできたテニスボールが、戦闘員の頭をスコーンと弾き、倒した。


ミナトストアの屋上に、はや沈みかけている夕陽を背にするようにして、五つの影が立っていた。

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