「ホルス! 一人ぐらい怪人がいるだろう! いまがスクールファイブに攻撃をする絶好の好機なのだ。さっとよこせ!」


研究室の隅から、頭をぼりぼりと掻きながらホルスが姿をあらわした。

「クギムーはどうしました?」

「とっくにやられたよ。あいつも頭が悪すぎたな。おとなしくしていればよかったものを、自分から正体をあらわしてしまった」


「ふーむ…。いま一人作ってますがね、準備が整うのは明日ですね」

「今日だ。私は今日、怪人がほしいんだ」


シータは、かつてないほどあせっていた。

いまだ味わったことのない奇妙な感情がシータの頭に浮かんでは消えていた。


それもこれも、あの男、瀬谷博斗に原因がある。あの男の一言が、私を戸惑わせている。


心?

私には、心がある。

私は人間だからだ。


シータは葛藤していた。体育祭もそうだったが、陽光祭もまた、スクールファイブを苦しめる絶好のチャンスだ。

ただ、シータのなにかがためらっていた。陽光祭が終わるのを見てみたいという欲求が生まれつつあった。


だからこそ、シータは戦わなければならない。妙な感情に支配されないうちに、スクールファイブと瀬谷博斗に攻撃を仕掛けるのだ。

そうすれば、この晴れない気分もすっきりするのだろうから。


「どうしたんですか…そんなに苛立って…冷静な貴方らしくない」

「余計なお世話だ。いらぬ詮索をするな。怪人は出来るのか、出来ないのか?」


「いますよ、いるには、いますよ。ただ…」

「ただ、なんだ?」

「少々性格に難がありまして…」

「そんなことは問題ではない。さっさと呼べ」


「僕は、いちおう警告はしましたからね。知りませんよ」

「思わせぶりな言い方をする」

シータは呟くと、ホルスを催促した。


ホルスは、ふたたび部屋の奥に姿を消した。二言三言、なにか話しているような声がしたが、突然、壁をびりびりと揺らすとんでもない騒音が響き渡った。


ホルスが、よろよろと這い出てきた。

「ぼ、僕は知りませんよ。…シータさん、なんとかしなさい」


シータは、ホルスに続いてカタカタと姿をあらわした怪人を見た。

これは、陽光学園で見たことがある。スピーカーだ。


「お前か。名前は?」

怪人は、答える代わりに、箱型の巨体を揺すり、腹に響き渡る重低音を鳴らした。


「くっ…」

シータは顔を歪めた。

「名前なんか関係ねえ! 俺は、兄貴の敵を討つ! 許さん、スクールファイブ!」

怪人は、シータなどまるで眼中にないといった様子で、のしのしと歩き、じきに走り始めた。


「待て! 命令を聞け!」

シータは怪人の後ろ姿に向かって叫んだが、すでに怪人は部屋を飛び出していた。

「ちっ…」


「あいつは、スピカムー。マイクムーの弟怪人ですよ。兄の死に逆上して、もう手がつけられないんです」

ホルスは苦笑した。


「ふん。言うことを聞かなければ、聞かせるまでだ。戦力になるのなら、それでいい」

シータは不愉快そうに笑うと、スピカムーの後を追った。

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