6
「ホルス! 一人ぐらい怪人がいるだろう! いまがスクールファイブに攻撃をする絶好の好機なのだ。さっとよこせ!」
研究室の隅から、頭をぼりぼりと掻きながらホルスが姿をあらわした。
「クギムーはどうしました?」
「とっくにやられたよ。あいつも頭が悪すぎたな。おとなしくしていればよかったものを、自分から正体をあらわしてしまった」
「ふーむ…。いま一人作ってますがね、準備が整うのは明日ですね」
「今日だ。私は今日、怪人がほしいんだ」
シータは、かつてないほどあせっていた。
いまだ味わったことのない奇妙な感情がシータの頭に浮かんでは消えていた。
それもこれも、あの男、瀬谷博斗に原因がある。あの男の一言が、私を戸惑わせている。
心?
私には、心がある。
私は人間だからだ。
シータは葛藤していた。体育祭もそうだったが、陽光祭もまた、スクールファイブを苦しめる絶好のチャンスだ。
ただ、シータのなにかがためらっていた。陽光祭が終わるのを見てみたいという欲求が生まれつつあった。
だからこそ、シータは戦わなければならない。妙な感情に支配されないうちに、スクールファイブと瀬谷博斗に攻撃を仕掛けるのだ。
そうすれば、この晴れない気分もすっきりするのだろうから。
「どうしたんですか…そんなに苛立って…冷静な貴方らしくない」
「余計なお世話だ。いらぬ詮索をするな。怪人は出来るのか、出来ないのか?」
「いますよ、いるには、いますよ。ただ…」
「ただ、なんだ?」
「少々性格に難がありまして…」
「そんなことは問題ではない。さっさと呼べ」
「僕は、いちおう警告はしましたからね。知りませんよ」
「思わせぶりな言い方をする」
シータは呟くと、ホルスを催促した。
ホルスは、ふたたび部屋の奥に姿を消した。二言三言、なにか話しているような声がしたが、突然、壁をびりびりと揺らすとんでもない騒音が響き渡った。
ホルスが、よろよろと這い出てきた。
「ぼ、僕は知りませんよ。…シータさん、なんとかしなさい」
シータは、ホルスに続いてカタカタと姿をあらわした怪人を見た。
これは、陽光学園で見たことがある。スピーカーだ。
「お前か。名前は?」
怪人は、答える代わりに、箱型の巨体を揺すり、腹に響き渡る重低音を鳴らした。
「くっ…」
シータは顔を歪めた。
「名前なんか関係ねえ! 俺は、兄貴の敵を討つ! 許さん、スクールファイブ!」
怪人は、シータなどまるで眼中にないといった様子で、のしのしと歩き、じきに走り始めた。
「待て! 命令を聞け!」
シータは怪人の後ろ姿に向かって叫んだが、すでに怪人は部屋を飛び出していた。
「ちっ…」
「あいつは、スピカムー。マイクムーの弟怪人ですよ。兄の死に逆上して、もう手がつけられないんです」
ホルスは苦笑した。
「ふん。言うことを聞かなければ、聞かせるまでだ。戦力になるのなら、それでいい」
シータは不愉快そうに笑うと、スピカムーの後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます