博斗は、朝もやのなかを歩きながら背伸びをした。


部室棟に入り、カッカッと階段を上がって、宿泊所に向かった。

時刻は六時をまわっている。そろそろ起床時刻だ。

昨日は六時頃にはもう五人とも起きていたというのに、今日は一人として起きてこない。

あれほど早く寝ろといったのに、色々喋って夜更かししたんだろう。


宿泊所は普通の教室と同じレイアウト、広さで、ただ、内装だけが違う。質素なものだが、ベッドが並んでいるのだ。

隣にはシャワー室もある。このシャワー室を使えばいいもんだと思うのだが、なぜか彼女たちは銭湯に行っている。

陽光学園には、どうも博斗にはいまいち理解できない伝統というものがあるようだ。


博斗が宿泊所のドアを開けようとすると、ノブが向こう側からまわされた。

「あ…おはようございます」

ドアを開いたのは由布だった。


「おはよう。君一人なのか?」

「はい。みなさんの朝ご飯を買い出しに行こうと思って…ちょっと早く起きました」


「あとの四人は?」

「まだ、寝ています。起こそうとはしたんですが…」

「なにい! 集合時間だぞ。まーた理事長になんかいわれるとやだからな。俺が起こしてやる」


「や、やめたほうが…」

博斗は由布の制止に構わず、ドアを開け放った。


「なんだこれわ」


ぐがーぐがーと燕の大いびきが聞こえる。

きりきりきりきりと耳障りな歯ぎしりは翠だ。


「俺は何も見ていないし、聞いてもいないぞ」

言いながら博斗は、比較的静かに寝ている遥のベッドに近づいた。

寝息は静かだが、遥の布団は上下がひっくり返って一枚はがれ落ちている。


「やめたほうがいいと思います…。彼女、寝相が…」

「ああ、寝相が悪いな。これじゃ色気もなにもあったもんじゃない。ほら、起きろ。時間だ。朝だ」


博斗は、遥の肩を叩こうとしたが、その途端、布団から飛び出した遥の足にみぞおちを蹴られて昇天した。

「う゛…」


「…とても悪いんです」

由布は申し訳なさそうに目を伏せた。

「こういうのは、寝相とは言わないぞ…」


博斗は壁に手をついてよろよろ起き上がった。

「だったら…次は桜君だ」


博斗はこれも静かに眠っている桜のベッドに近づいた。桜は寝相も乱れていない。眼鏡を外してすうすうと可愛い寝息を立てている。


「あの…桜さんのベッドには…」

博斗が、桜のベッドに手をかけると、ぶいんと言う音がして、ベッドから青白い光が出た。


「…防犯用に高圧電流が流れています」

「げっ!」


由布は目を伏せたままだった。

「あの…七時になればみなさん起きるはずですので、待っていたほうが…」


「…そうする」

博斗は、ふらふらと宿泊所を出た。

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