五人はぶらぶらとにこにこ銀座を歩いた。

「こうしてみると、ありそうでないもんだね」

「なにがぁ?」

「安くてたくさん食べられて、ゆっくり出来る店」


「ちょっと注文が多すぎるんじゃない?」

遥は桜に笑いかけた。

「気持ちはすっごくわかるけどねっ」


「ねえ、ねえ、おこのみやきとかどう?」

指をくわえながら先を歩いていた燕が、追いついてきた翠の袖を引っ張って、一件の店の看板を指差した。


「お好み焼き…ですの?」

翠は顔をしかめた。

「だめ?」

「駄目というか…わたくし、食べたことがないですわ」


「なにーーーーっ!」

後ろから雄たけびが聞こえ、桜が飛んできて翠の首根っこをつかまえた。

「それは駄目だなぁ。日本人たるもの、お好み焼き食べないと。うんうん。さあ、決まった決まった。いこいこ」


「あ、あの、わたくし、まだ食べるとは一言も…」

「おこのみやきはおいしいよ?」

「…」


「ほら、ぐたぐた言ってないでさあ、翠。死にゃあしないってば」

追いついてきた遥が翠を押し、五人はお好み焼き屋のドアへと吸い込まれていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る