5
「海か…」
博斗はふと天井を見上げた。夢が思い出される。
「どうか、しましたか?」
「いや、別に。まあ、そういう硬派な企画も、たまにはいいんじゃないかと思ってね。俺も期待してるから、うまくいくといいな」
「はい。…調査は済んでいますから。あとは集計して出展するものを選ぶだけです」
由布は微笑んだ。
「早いですわね。うちなんかまだ道順も決まってないというのですのに」
「翠のクラスは何やるんだ?」
「定番。お化け屋敷ですわ」
翠は肩をすくめた。
「なるほど確かにね、翠が化粧なしで出てくればそれは未曾有の恐怖だね」
桜がくすくすと笑った。
「なんですって!」
翠が桜につかみかかり、やれ厚化粧だやれ牛乳瓶だの言い争いが始まった。
博斗は毎度の騒ぎに、にやにやとしながらも、生徒会室をもう一度見回した。
「一人いないだけでこんなに物足りないものか」
「そうですね。遥さんは私たちのムードメーカーでもありましたから」
「君たちはやっぱり五人揃ってないといけないな」
由布は再びうなずく。
「そうですね。わたしも、他の皆さんと一緒にいると強くなることができます」
博斗は目を細めた。
「それは他のみんなも同じだろう。君がいるからみんなが支えられている部分もある。あのとき、由布が戻ってきてくれてほんとによかった。…持ちつ持たれつだよ」
由布は、少し赤くなった頬を気付かれないように、うつむいて呟いた。
「わたしはただ…博斗先生が呼んでいたから戻ってきただけです」
「俺はなにもしていない。戻ってこようという意志があった由布の力だよ」
由布は顔を上げた。うっすらと微笑が浮かんでいる。あれ以来、由布が微笑むことが多くなったように感じるのは、決して博斗の思い過ごしではないはずだ。
博斗と由布は、なんとなくそのまま見つめ合っていた。由布の黒い瞳は吸い込まれそうなほど美しい。
「はいー、ごめんよー、生徒会室って最近ゴミが多くてね~」
桜が、箒をばたばたさせながら、博斗の前ににゅっと現れた。
「おわあっ!」
「やあ、お掃除お掃除っと」
面食らっている博斗の前を、桜はいったりきたりしている。
何だかよくわからなかったが、とにかく由布との話の腰を折られたことは確かで、思わず由布と顔を見合わせた。
「博斗先生、御自分のお仕事に戻らなくてよろしいんですの?」
「これも仕事のうちじゃないか」
「純真な女子校生をかどわかすことが、ですの?」
博斗が口を動かすより早く、由布がその答えに反応した。
「わたしは皆さんが思うほど…」
桜達の視線が由布に集まった。
だがそこで言葉は途切れ、由布は微笑んだ。
「少し、風にあたってきます」
由布はそういうと、博斗達に目もくれずにすっと生徒会室を出ていった。
「ゆふどうしたの?」
燕は首を傾げた。
「さあ? なんかおかしなことでも言ったかな?」
桜も首をひねった。
博斗は、苦い顔をした。
彼女達はなにも知らないのだから責めることはできない。
「い、いいじゃないか、とにかく、仕事だ、仕事。明日は遥君が帰ってくるんだから、準備万端にしておかないとな」
博斗はややひきつった頬を無理に笑わせ、努めて快活に言った。
桜達になにかを言われないうちにと、博斗はそそくさと生徒会室を出た。
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