「たとえ海中に没したとしても、我等は敗れたわけではない」

灰色の影が揺らめきながら声を震わせた。


影は周囲のすべてを威圧し、空気を歪めた。ちろちろと青白い光が、博斗のほうに伸びてこようと舌を伸ばすが、博斗は気迫に満ちた視線で影を見据え、舌を引き下がらせた。


「我等は海中に没し、海底の人間となろう。そして機が熟したとき、海底から再び大地を我等のものとしよう」


博斗は不敵に笑った。

「何度でもくるがいいさ。お前達が蘇るなら、そのときには私達もまた蘇る。恐怖による支配を、私は許さない。何度でもお前達を討ち滅ぼしてみせる」


影はひときわ大きく揺らぎ、引き裂かれるように大きくひしゃげ、そこから絞り出された声もまた、引き裂かれるように呻き、怒りに燃えた。


「覚えておけ。我等は敗れたのではない。貴様達が触れることのかなわぬ海中で目覚めを待とう。そして、海より来たる新たな帝国が、愚かな地上文明を殲滅せしめるべく必ず現れるだろう。そう、我等は海を味方にする。海は全ての生命の母である。人類のみならず、生命あるあらゆるものが海より生まれ、そして海へと還ってゆく。海より来たる帝国こそ地球を支配するにふさわしい。それは生命の摂理だからだ。覚えておくがいい。海こそすべての母だ。この星は我等にこそふさわしい」


影は怨々と呻きながら、次第に薄れ、霧散した。

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