第二十三話「海へ還れ!」 軟体怪人クラゲムー登場

第二十三話「海へ還れ!」 1

マヌは焦燥していた。

ピラコチャ、シータともに、このところ、あと一歩というところまでスクールファイブを追いつめながら、その後が続かない。


マヌは、幹部達のこのていたらくの原因はいったいなにかと考えた。


たとえばピラコチャは、どれほど優れた怪人と作戦を与えたところで、それをあっけなく台無しにしてしまうことが出来るほど低能だ。いかに腕力があろうとも、このままではピラコチャがスクールファイブを倒せるとはいかんとも考えがたい。


ホルスはどうか。

マヌは、ホルスの卓越した能力に一定の評価をくだし、そのためにまるごと一つの研究室を与えている。事実、ムーの超兵器のほとんどは、ホルスと、妹のイシスが開発したものである。


だが、眼を覚ましてからのホルスには、なにか欠けているものがある。いまのホルスのつくる怪人は、決め手に欠く。再び前に立ちはだかったスクールファイブには、中途半端な怪人で充分だと考えているのだろうか。ホルスは、真面目に地上を攻撃する気があるのだろうか。


ホルスは我々の勝利などどうでもよく、単に自分の私利私欲、妹という欲望の対象を追う手段としてムーを利用しているだけなのではないか。


つまるところマヌは、ピラコチャに対してもホルスに対しても、全権を委ねるほど全幅の信頼を置くことができずにいる。


だが、ピラコチャもホルスも、マヌの力で統制のきく幹部であり、落胆こそすれ恐れる必要はない。


マヌがもっとも警戒しているのはシータだ。

シータの心は何者に対しても閉ざされており、マヌの力をもってしても、その本心を探り出すことは出来ない。


イシスの失踪があってからというもの、マヌは、機会をみては幹部達の心を覗き、調べていた。

二度と、イシスのときのような失態―予期せぬ裏切り―を許さないために。


ピラコチャもホルスも、少しおだてて話にのせてやれば簡単に心の壁をなくすのだが、シータの心は、いかようにしても覗くことが出来ない。

はたしてシータには人間の心というものがあるのかとさえ疑いたくもなるのだが、シータのもつ力をみると間違いなく心がある。

シータは、顔だけではなく心にも厚い仮面を被っているということなのか。


シータが自分に対して心からの忠誠を誓っているとは考えがたい。

シータは、マヌとの間で利害が一致しているために戦っているようにうかがうことさえ出来る。


だが、幹部達のなかでもっとも戦闘力が高いのがシータであることも事実である。

もしピラコチャとシータが一対一で相対すれば、シータは、赤子の手をひねるようにやすやすとピラコチャを滅ぼすことができるだろう。


その優れた戦闘力が、スクールファイブを倒すためになくてはならないものであるゆえに、マヌはシータの行動にかなりの自由を与え、多くをその裁量に任せている。


ピラコチャやホルスが、たかをくくって攻撃した程度では、スクールファイブを滅ぼすことが出来ないことがはっきりとしてきた。


マヌの当初の考えでは、ピラコチャやホルスに攻撃を繰り返させることでスクールファイブを消耗させ、さらにシータがたたみかけるように攻撃をしかけることで、スクールファイブを確実に追いつめることが出来るはずだった。


しかしシータの行動は、マヌの期待とは微妙に異なることが多い。

シータは基本的に、他の幹部達との連携を考えずに行動している。シータには独自の行動哲学があるようだ。

マヌはその態度に苛立ったが、しかしシータの戦闘力が必要であることも事実だ。


マヌは唇を醜く歪めた。まだパンドラキーの在処も定かではない以上、いましばらくシータを泳がせるべきだろう。

なんのことはない。シータもしょせんは戦いのなかに悦びを見い出す女だ。

戦いという餌を与えている限り、飼い慣らしておくことができるのだから。

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