9
遥は、伸びてきたタンゴムーの腕を払いのけた。
「答えは、『ノー』よ!」
「なら、しょうがないね、Let’s勝負といこうか」
タンゴムーは自分の体をぺらりとめくった。
「But、そんな体で、戦えるかな?」
「うっさいわね! あたしの根性、見せてあげるわよ!」
遥は手を腕章に伸ばした。
「お願い! あたしが、あたしを見つけるために、少しだけ力を貸して!」
腕章からルビー色の燃えるような赤い輝きが吹き出した。
「おのれ、スクールファイブ! いざBattle!」
タンゴムーは、さらに二、三枚、自分の体をぺらりとめくった。単語のスペルが表面に綴られている。
「Knufe!」
タンゴムーが単語を発音すると、タンゴムーの体から、にじみ出るようにして、ぎらぎらと鈍く光る果物ナイフが浮かび上がった。
ナイフは勢いをつけてレッドめがけて飛んできた。レッドは狙いすました手刀でナイフを床に叩き落とす。
「Knifeは、複数形になるとKnivesだ。ここんとこ、要注意だな。なんと、fがvに変わるんだぞ!」
タンゴムーの体から、今度は一気に十本以上のナイフが突き出した。
レッドは、驚くほどすばらしい機転で、この次なる攻撃に対するもっとも有効な武器を考えついた。
「ひねり」を一つ加えればいいんじゃない。
いまさっきまで風邪でノックダウン寸前だったとは、我ながらとても思えないほど、鋭敏な感性だ。危急の時の遥の闘志は、決して侮るべきものではない。
あたしには、不屈の精神がある。泣きべそかいて、親にも無視されて、それでも、どんなに長い不遇のときを過ごしても、いつか、報われるって、そう思ってじっと耐えてきた、精神力がある。
だから、いまのあたしは、笑っているんだ。みんなと一緒に。いま、あたしは、花開いているんだから!
そうか、これでいいんだよ、きっと、あたしは。
レッドは眼前に、ちょうど体がすっぽり入る大きさのフラフープを出現させた。
それとほぼ同時に、タンゴムーの体から無数のナイフが飛び出した。ナイフはレッドを串刺しにすべく、ぎらぎらと飛び、フラフープをくぐった。
だが、ナイフはフラフープを超えてレッドに届くことはなかった。
代わりに、フラフープをくぐったナイフは、鏡に跳ね返されるように、そっくり方向を変えてフラフープの同じ面を飛び出し、タンゴムーに向かって戻った。
「Oh! アンビリーバボー!」
タンゴムーは絶叫した。
その体に、すとんすとんと小気味のいい音を立てて、次々にナイフが突き刺さる。
「…オーウ、アウチ!」
タンゴムーは、黒ひげゲームよろしくナイフだらけになった体を抱えてうずくまった。
「Why?」
レッドは、フラフープの一個所を示した。
「ちょっとひねったのよ。メビウスの輪って奴ね。空間がねじ曲がって、結局、元の裏側にいるってのが、メビウスの輪でしょ。ちょっとそれを応用してみたわけ。うん。我ながら、抜群のアイディアよね」
レッドは、フラフープを消し、代わりに、スクールフラッグの旗竿を取り出した。
「みんなの力を、借りるわね」
レッドは床を蹴って、悶えているタンゴムーの裏表紙、つまり背中に、旗竿を突き立てた。旗竿は一気にタンゴムーを貫き、床に到達した。
「Yes! We Like to watch TV,too!」
タンゴムーは、意味不明な叫び声をあげると、悶えながらぼろぼろと崩れ去り、やがて、塵のようになり消えてしまった。
変身している間は精神力でごまかされてきた消耗と疲労が、どっと襲ってきた。
まさに精根尽き果てて、遥は、その場に崩れた。
「そう。あたしは、あたし。演技でも、真似でもないあたしが、どこかに、あるの」
遥は、そのまま、ぐったりと意識を失った。
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