小さい頃から頼りになる望を見て憧れ続け、その真似をし続け、いま、遥は、また一つの憧れを見い出した。


包容力があり、なんでも相談したくなる博識を持ち、勇気と判断力があり、そして、統率力もある。

すべてをさざけても構わない気すらしてくる、深い魅力にあふれた、一人の教師。


遥は、博斗が好きだ。

だが、それは恋愛感情だろうか。


違う。

遥は気付いた。


遥にとって、博斗は望の代わりなのだ。

遥にとって、小さな頃から憧れていた望の姿が、博斗そのものなのだ。たくましく、いつでも遥を見守り、かばってくれる大きな影。頼り甲斐のある人物。


遥は、いつでも誰かに見てほしいのだ。自分の頑張りを。自分の存在を。自分の証を。


じゃあ、いまのあたしは、いったいなんだろう。「中津川遥」は、あちこちから自分の憧れをかき集めてくっつけ合わせただけ。


怪人の言う通りだ。あたしは、いつでも、誰かにほめてもらいたくて頑張ってきた。自分の存在、自分が存在するということを誰かに認めてほしくて、それで頑張ってきた。


いまの遥は、家族にも、友人達にも、認められている。誰もが、遥の周りに集まってくる。

遥は、会長だ。リーダーとして、みんなに必要とされる存在だ。スクールレッドでもある。スクールファイブは、遥を必要としている。


周囲から必要とされ、頼りにされているというその自覚が、遥の拠り所だった。それが、遥が強く生きるためにどうしても必要なものだった。


怪人の指摘はその点で的を射ている。

遥はいま、中間テストに苦しんでいる。遥は心のどこかで、いい点数を取ることで、周り、とくに親、に評価してほしいと考え、望んでいる。そして、生徒会長としての面子を保ち、尊敬を受け続けるためには、遥は、ここでまずい成績をとるわけにはいかない。

それが、怪人につけいられる心の隙だったのだ。


遥は自虐的に苦笑いした。そうか、プライドが高いのはあたしだったんだ。翠なんかより、あたしのほうがずっとプライドが高くて、エエカッコシーだったんだ。


遥は、ふと目を覚ました。いつのまにか眠っていたらしい。


窓から昨日と同じように光が飛び込んできた。

怪人は、光の中で実体化し、そして、激しくステップを踏んで踊り狂った。じきに、ジャッと強いステップを踏んで、怪人は踊りを止めた。


「ベイビー、Hotな夜のお迎えに来たぜ」

「いきなり随分騒がしいのね」

「タンゴムーだけに、タンゴだ。な~んてね、Its’s American Joke! HAHAHA!」


遥はがんがんと痛む頭を抑えるため、こめかみの辺りを拳で叩いた。この怪人につきあってるとますます調子悪くなりそう。


「ベイビー、昨日の話は考えてくれたかい? Meが手を貸せば、ベイビーはテストで百点満点なんて、ぜんぜんドリームじゃないんだよね~。そうすれば、Yourマザーもファザーも、ユーのことVery Proud!」


「それで? それがどうしたのよ? それで周りがどんなにあたしのことを誉めてくれたて、あんたなんかの力に頼ったら、あたし自身が満足しないわ。あたし自身が、一生後悔するわ!」


「チッチッチッ。そいつはどうかな、Tom」

…Tomって誰よ、と遥は思ったが、余計なことを考えると、熱に浮かされたいまの遥の頭はそれだけで集中をとぎらせてしまう。少しでも、自分を強固に保っておかなければならない。


「ユーは、いつでも人を追いかけてきた。ユーのシスターをミミクリして、ユーのティーチャーをミミクリして、ペルソナをMakeしてきたのね。いまのユーは、とてもよくできたパペット。とてもGood、But、ただのパペットね。ミミクリね」


タンゴムーは、にゅっと手を伸ばした。


その手を受け入れては、いけない。

拒絶しなければならい。否定の意志を、はっきりと示さなければならない。


だが、そのために、拠りどころがほしい。タンゴムーを、きっぱりと拒絶できる拠りどころが。

その刹那、遥は、一つの手がかりを見つけた。


憧れは、憧れ。でも、じゃあ、「誰」が憧れているの?

憧れを探してくるのは、「誰」?

憧れをつなぎあわせるのは、「誰」?


中津川遥は、きっと、そこにいる。まだ、あたし自身、見つけ出していないけど、でも、きっとそこにいる!

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