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校門からどっと吐き出される生徒達の中に、遥と稲穂の姿があった。
中間テスト一週間前を控え、すでに課外活動は軒並み停止期間に入っており、生徒会と新聞部もその例外ではない。
「ほんとうは、一日だって休みたくないんじゃないですか? 陽光祭の準備がしたくて?」
「できれば、ね。でもほら、いちおう、勉強だってしなくちゃいけないからね、しょうがないわよ」
「不思議ですね」
「なにが?」
「試験というのは、日ごろの積み重ねを計るもの、ですよね。だとしたら、なにも試験の一週間前になってから慌てなくても、ありのままの自分で臨めばいいのではないですか?」
「そりゃ、理想論じゃない。まあね、桜みたいに頭よければほっといても勉強なんてできるかもしれないけど、あたし達じゃ授業だけでなんとかするなんて無理よ、無理」
「それじゃあ、ほとんどの生徒にとって授業だけでは理解できないような内容を教えるというのは、教育制度の矛盾ではないですか?」
「…稲穂ってときどきよくわからないなあ。ぼーっとしてるのばっかりかと思ったらいきなりそんなこと言い出すし」
遥は肩をすくめた。
「そういうのは博斗先生に話したほうがいいと思うな」
「そうですか? そうやって、議論しないでいることが、脳の回転を悪くする原因の一つですよ」
「え゛…そうなの?」
「脳は機械と同じです。使いすぎると壊れますが、使いすぎないのもまた、不調の原因です」
「うーん。…どうしちゃったの、ほんと? いきなりそんなこと言い出しちゃって?」
「いえ、別に。遥さんなら色々とこういうことも考えているかもしれないと思ったんですけど。…たまにはいいとおもいません、こういう記事?」
「陽光生、徹底討論! みたいな?」
「そうですそうです。もっと、世界や人生に目をむけてみるべきだと思いませんか?」
「う~ん。なんかきっかけがあれば、そういう話もできるのかもしれないけどね。普通にそんな記事書いても、紙飛行機にされるだけだと思うな」
「そうでしょうか…? でも、いまは陽光アワーズの人気が上がっているところですから、うまくいくかもしれませんよ」
稲穂は目を輝かせた。
「あら、人気上がってるの? なんで?」
「この前から何回か特集組んだんですよ。陽光学園を襲った謎の怪奇現象というタイトルで…」
「あ、ああ…あの~時間が止まったりしたやつね」
遥はどきりとしつつ、何気ない風を装った。
「ええ。学校がぜんぜん情報をオープンにしてくれないので、生徒にも少し不満があるんですよ」
「あ、あはは…そ、そう」
遥は曖昧な笑みを浮かべた。そして、すかさず話題を変える。
「でもね、いくら人気があがってもね、やっぱり、そういう堅い話題って難しいと思うな。あたしの経験も含めて、そう思う。本音で語り合うのって、怖いからね」
「怖い?」
「うん。たとえばほら、あたしと稲穂がいまから、ほんとのほんとでつっつきあったら、考え方に根本的に違うところがあって、もう絶交! とかってなったら、怖いでしょ? 自分達が、いままでつくってきたのが、あっという間に粉々になっちゃうんだもの」
「では、遥さんは、私とは本音でぶつかりたくないのですか?」
「わかんない。そのときになんないと、わかんないや。でもたぶん、稲穂とは、大喧嘩しても、大丈夫って気がするけど」
「そう、ですか…」
稲穂は目を伏せ、静かに歩き続けた。
遥は、稲穂が黙ってしまったので、顔を上げて一人で喋り始めた。
「…でも、あたしなんか、ほんと、幸せなんだと思うな。本音、出し合える仲間がいるし、本音で付き合ってくれる先生もいるし」
「生徒会の人たちですか? それと、瀬谷先生?」
「うん!」
遥は歯を出して笑った。
「なんだかんだいって、みんないい仲間だと思うな。すごく」
「そうですか…」
稲穂はやや沈んだ顔をして、ぽつりと言った。
「私には、そういう仲間がいません。だから、そういうの、うらやましいと思います」
「仲間がいない?」
遥は、稲穂の前に回りこんだ。
「そんなのって、寂しいじゃない? 新聞部の人は? 家族は?」
「部活は、部活です。家族と言えるような人は、私にはありません。私は、いつも自分一人の判断で行動しますから」
「そっか。変なこと聞いたね。…でも、だったらなおさら、寂しいじゃない」
「私はそう感じたことはありませんけど。ずっと、そうでしたから」
「そんなことないわよ。稲穂を見てると寂しそうに見えるもの。稲穂って、仲間に囲まれたこととか、いままであった?」
「ありません。第一、わずらわしいだけだと思います」
「そんなことないってば! 稲穂って殻に閉じこもってる。自分の殻から出てこようとしてないんじゃない?」
「殻…。殻ですか」
稲穂は頬を歪めて笑った。
「いまの私には、まだ、殻が必要なんです」
そして、稲穂は遥に向き直った。
「私も、いつか、遥さんと心から語り合えるときが来るのを待っています。…心配しなくても、そのときは、必ずきますよ。ただ、いまはまだ、そのときではありませんから」
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