海浜公園から見える運河の頭上を、都市高速道路が走っている。

都市高速道路は、運河を渡るところで大きな吊り橋になり、周囲の風景の中でも際立つ美しい姿をさらしている。


吊り橋は陽光ブリッジという愛称で呼ばれ、夜になると一面に薄い青色のライトが点され、夜の港のなかに幻想的に浮かび上がる。

さらにその陽光ブリッジを見下ろすようにして、高さ53メートルの陽光タワーが立っている。

全身にライトが点され、てっぺんには展望台が突き出し、左右の輝きを生み出す陽光ブリッジとは対照的に、上下の輝きを生み出している。


今日は、主役の座を夜空に咲く花火に譲っているが、普段ならばこの二つが、海浜公園の夜を美しく演出する主役である。


頭上ではなく、どこかすぐ近くで、ババババッと、激しい音がした。

悲鳴を上げながら、見物人達が、博斗達に構いもせずに走り抜けていった。


「ちょっと…どうしたんです?」

博斗は、なんとかそのなかの一人をつかまえた。

「は、離してくれっ! あんたらも逃げろ! 花火のお化けだ!」

男は博斗の手をほどき、ほうほうのていで走り去った。


「花火のお化け?」

「それって…まさか…?」

遥は、浴衣の懐に手を差し入れた。赤い腕章の生地が見える。

「あーあ、せっかくの花火大会だってのに。乙女には楽しむ暇もないのか~」


バチバチと音を立てながら、何かがやってきた。

「残暑おみまーい、もうしあげまーす。残暑~怪人ハナビームー!」

言うなり、怪人は爆竹をばらまいた。激しい音と火花があたりに響く。


博斗は、姿を現した怪人を観察した。

全身に、無数の花火が突き出し、絡まっている。顔面には「火気厳禁」の貼り札。

胴体は、巨大な筒。胴体に「中日優勝」と書かれている。

「…ドラゴンって言いたいのか?」


「キャップ…」

ひかりが博斗の裾を引っ張り、上を向かせた。

「次にナイアガラが来ます。そこで観客の視線がそちらに集中した隙に…」

博斗は目でうなずいた。


「5、4、3、2、1…」

ひかりが時計を見ながらカウントダウンする。

横一線に、美しいナイアガラが姿を現した。輝きが夜の海に反射し、まるで光の洪水のように溢れ出す。その瞬間、誰もが、ナイアガラを見上げていた。


「…いまだっ!」

それだけで充分だった。


燕以外の四人は、博斗の言葉がなにを意味しているか理解し、めいめいの腕章に手を伸ばした。

燕は、その四人を見て、自分がなすべき事に気付いたため、行動の開始は遅れたが、動きの素早さでその遅れをカバーし、五人はほぼ同時に腕章を突き出して変身を遂げた。


ナイアガラの美しい輝きが人々の目を奪うなか、ハナビムーとスクールファイブは睨み合った。

「あーらーわれーたなー! こっちーへ、こい! スクールファイブ!」

怪人は、くるりと背を向けて一目散に駆け出した。


「お待ち! 逃がしませんわ! 記念すべきわたくし達の新必殺技を受ける名誉ある怪人第一号なのですから!」


五人は怪人の後を追って、倉庫地帯に駆け込んだ。

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