4
どーん、どーん、どーん。
次々に、色とりどりの花火があがり、そのたびに、見物人達から、ため息と歓声が上がった。
からんころんと下駄を鳴らして歩きながら、遥が、博斗にぴとっと身を寄せた。
「きれいですね、先生」
「そうだなぁ。ほんと、花火は世界中にあるけど、こうやって、いろんな色をつけて、美しさを追求する花火ってのは、日本人の特権だよ。ほんと、職人技だな」
「でも、なんか、はかないですよね。一生懸命つくっても、たった、この一秒か、二秒か、それで終わっちゃうんですよ?」
「花火ってのは、はかないから素晴らしいんだよ。もしあの輝きが、丸一日続いてみろ、誰も見やしなくなる」
「でも、なんか、花火の職人さん達は、寂しくないんですか?」
「そりゃあ、寂しいだろうな。何日も、何ヶ月もかけて創ったものが、一瞬で終わっちゃうんだから。…でも、陽光祭とかだってそうだよ」
「え?」
「何ヶ月も、一生懸命準備したって、たった三日間で、すべて終わっちゃうんだよ。後に、形としてはなにも残さずにさ」
「そうですよね…。あと、二ヶ月もしないうちに…」
「それを言い出すと、人生だって、そんなもんなんだよ。はかないものさ。何か、形として、生きてる証が残せるわけでもない。それでも、人間は、生きるのをやめないだろう?」
「はい…」
「それでいいんだよ。はかないものだから、せめて輝けるときだけでも必死に輝いて、自分の輝きを、一人でも多く、他の誰かの心に焼きつけるんだ。花火も、人間も」
そんな博斗と遥を横目で見ながら、桜は皮肉な口調で笑った。
「んな。花火なんてカリウムとか銅が燃焼してるだけじゃない」
「桜さん、ロマンチックのかけらもないことを言うんですね」
由布が桜を寂しげに見た。
「しょうがないよ。…そういうふうに育てられたんだから」
桜は自嘲した。
「そうですか…」
由布は目を伏せた。
「そういうことを抜きに、きれいなものはきれいだと、思えばいいのですよ、桜さん」
ひかりが桜に並んだ。
「人間の知覚は、便利なものです。感覚している通りの情報が脳に与えられるとは限らないのですから、たとえ、それがただの化学反応だとしても、人間はそれを花火として知覚することが出来ます。…他のどんな動物にも、できないこと。人間にだけ許された特権であり、人間の、人間であるゆえんなのですよ」
「僕もそう思いたいよ。でも、心まで試験管に染まってる僕には、まだ無理なんだ。…ちょっとずつ、そう考えていきたい」
「そうですね…。科学に必要なのは、理性でも、論理でも、計算でもなく、美しいものを美しいと思い、大切な人を大切だと思う、たった、それだけの気持ちですよ」
由布は、桜から離れ、博斗に近づいた。聞きたいことがあった。
「…ムーも、心を持っているんでしょうか?」
「え?」
博斗は由布を見た。
「わたし達が戦っている戦闘員や怪人達にも、心があるんでしょうか?」
「う~ん。ないとは言えないんだろうな。それだけに、なおさら、つらいな。心があるもの同士、わかりあえることがあるかもしれないのに」
「できることなら、そうしたいです。お互いに相手のことがちゃんとわかれば、戦いなんて起こらなくて済むはずなのに」
「それがうまくいかないから、人間は、歴史が始まってから延々と戦いを繰り返して、無意味な血を流してきたんだ」
「だから、心なのですか? 心なら、理解しあえるのですか?」
「俺にも、よくわからないよ。ただ、心をわかりあうには、他の手段より、心そのものがぶつかりあったほうが、いいんじゃないかな、って」
「博斗さん。それは、間違っていませんよ。…ときには、どんな言葉や態度を介さなくても、心が直接伝わるときもあります」
ひかりが口を挟んだ。
「もしそうなれば…あるいは、あの人も…」
「あの人って?」
「え、ええ…シータさんです。私達があきらめずに接していれば、あの人も、きっと、いつか自分の過ちに気付いてくれるはず…」
「なんか、ひかりさん、シータが俺達の近くにいるみたいないい方しますね?」
「え? …い、いえ、シータさんと戦うときでも、根気よく心をわかりあおうとすればと思っただけです」
ひかりは口をつぐんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます