3
博斗達が屈伸やアキレス腱伸ばしをしている間に、翠は、新しい(でもやっぱり遥達に比べると露出度が妙に高い)水着に着替えてきた。
プールに歩き出そうとした博斗だったが、その足に、何かがぶつかった。
振り返ると、小学生らしき子どもが、後ろ向きに博斗の足にぶつかったところであった。
前を見ずに歩くからこうなる。
「お~い、プールサイドでは前を見て歩けよ…ん?」
博斗は気付いた。博斗にぶつかった子どもと向かい合うように、これまた子ども達の集団がいる。
「どうして僕が一緒じゃ駄目なんだよ!」
博斗のほうにいるクソガキが言った。
「お前、泳げないじゃないか。大人用プールなんかに入れるわけないだろ。お前なんか、子ども用プールでバタ足でもしてろよ」
「う~~~~! 泳げるよ!」
「嘘つくなって。お前、そんなにあずさ様にいいとこ見せたいのか?」
「ち、違うよ、そんなんじゃないよ!」
「へ~。どうします? あずさ様?」
クソガキ達を押しのけるようにして、これまた生意気そうな面をした女の子が現れた。
まあ、確かにかわいい顔はしているのだが…。
あずさは値踏みするように、博斗のほうにいるクソガキをじろじろ見ると、鼻を鳴らした。
「ふん。息継ぎもできない分際で、このわたくしと泳ごうだなんて、一万年早いでございますですわっ」
げ! こ、この喋り方は…!
「い、いいじゃないか、息継ぎしなくても、二十五メートル泳げばいいんだろ?」
「あなた、馬鹿ねえ。大人用のプールは二十五メートルじゃなくて、五十メートルあるのですことよ。あ・な・たは、お子様用で水遊びでもしてらっしゃい」
あずさは振り返ると、クソガキどもを連れて悠然と立ち去った。
あとには、がっくりと肩を落としたクソガキが残された。
「う、うう。ぐすっ。ぐずっ。あずさ様~」
遥がしゃがんで、クソガキの顔を覗きこんだ。
「どうしたの僕? 男の子が泣いてちゃ駄目じゃない」
「な、泣いてなんかいないよ。へっ、陽光の風が目に染みるぜ」
「なんなんだ、このクソガキは? 頭悪いんじゃないのか?」
「ぼ、僕はクソがきじゃないぞ! ふんっ! ふんっ!」
「わかったから鼻水を飛ばすな。じゃあ、ちゃんと自己紹介してみろ」
「陽光第三小学校二年一組、高倉玉次郎(たかくらたまじろう)、八歳!」
「た、たまじろう…ぷっ」
「わ、笑うなあ!」
「そうですよ、先生! かっこいい名前じゃないですか」
「そうだよ、せんせ」
桜は口を押さえて笑いをかみ殺している。
「玉次郎、たまじろう…うん、たまちゃんと呼んであげよう」
「た、たまちゃん?」
「ぷぷっ」
博斗は再び吹き出した。
「笑うなったらぁ!」
玉次郎は博斗の太ももをとんとん叩いた。
「はいはい。んで? あのクソ生意気なタカビー女は? 誰なんだ?」
「新小岩(しんこいわ)あずさ様」
「さまぁ?」
「お前~、同じ学年の女に『さま』なんてつけて、悔しくないのか?」
「だって、あずさ様はあずさ様だもん。すっごいお金持ちなんだって」
「翠、知ってる?」
「新小岩なら、中堅の起業家の家ですわ」
「なるほどな。まあ、同学年のお嬢様という高嶺の花にあこがれるのは、男としてはありがちな淡い恋心だ。うん。安心しろ、玉次郎。俺は応援してやろう」
「ありがとう、おじさん」
博斗はぐっと顔を玉次郎に近づけ、笑顔を浮かべて玉次郎の顎を突き上げた。
「おにーさんだ」
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