7
「さあ、早く、瀬谷君!」
理事長が茂みの奥を指している。
ひかりが泥をはねて走り出し、博斗はもう一度だけ戦場を振り返ると、無理矢理、顔を前に戻して二人に続いた。
雨は容赦なく博斗達に叩き付け、前進は困難を極めた。
いつのまにか博斗はひかりと理事長を追い越し、先頭に立っていた。
がさがさと丈の高い茂みを押し分けた博斗は、ふいに広々とした場所に出た。
ここから上には、膝下ほどの高さの草しかなく、数メートル上には頂上が見える。
山肌に沿って一周をぐるりとめぐる道には、高さ一メートルほどの高さの石の柱が、ほぼ等間隔で並んでいる。
「ストーンサークルですね…」
「瀬谷君、これも謎だが、頂上が先だ。頂上のテーブル石が、気になる」
「キャップ…ご覧を」
ひかりが足元を示した。
「?」
「草が最近踏み荒された跡です」
いくつもの靴跡が、ほうぼうから集まって草を踏みにじっていた。
「やっぱり、あいつらもここに来ているのか。ますます怪しいじゃないか」
博斗は急ぎ足になり、頂上に登りつめた。
頂上は、二十メートル四方ほどのほぼ正方形の平たい地面になっている。
足元には湿った草が生え、正方形の中心に、忽然と、テーブル石が存在した。
テーブル石は、高さが五十センチほど、大きさは、畳三畳ぶんというところだろうか。
表面はつるつるに磨き上げられ、黒く輝いている。
「ただの石なのか? 黒曜石みたいだけど…なにか見えるぞ。そうか、ペトログリフか!」
博斗は手で表面をなぞり、水を掃いた。
うっすらと、だがはっきりと、表面に、意味を知ることも出来ない記号が刻まれている。
「ここには筋が走ってる。なんだろう」
博斗は石のちょうど中央辺りを走る筋をなぞった。
縦に一線、歪むことも曲がることもなく、細い筋が走っている。
「まるで扉のようだな。ほんらい二つだった石を一つに組みあわせているように見える」
「扉…じゃあ、このなかに入ることが出来る? ここから御笠山のなかにいけるのか? しかしそうすると、ムーの連中はもう中にいるんじゃあ?」
博斗はテーブル石の片側に足をかけ、中央の筋から力をこめて引っ張ってみた。
「だ、駄目だ。びくともしない」
「なにか、開く方法があるはずだ。スイッチか、レバーか?」
理事長が辺りを見回したが、それらしきものはない。
「いずれにしても、行動を急いだほうがいい。妙だ。この辺り一帯に力がたちこめている。我々の足元、我々の四方、そして」
理事長は顔を灰色の空に向けた。
「我々の頭上。相当なエネルギーがこの山に集まっている。メインの動力炉がなくとも、ムーはこれだけのエネルギーをまだ持っているのか」
「肌がちくちくとします。何かが、起きようとしているんですよ」
これはひかり。
だが、博斗は何も感じない。
頭がずきずきすることもないし、肌がぴりぴりするようなこともない。
「ひとまず、手分けしてもう一度辺りを調べてみましょう。なにか、見落としているものがあるのかもしれません」
ひかりが提案し、博斗と理事長は、頂上の広場の草を掻き分けはじめた。
「…?」
博斗は、耳を押さえた。
耳鳴りのような響きが聞こえる。妙に甲高い音。
「なにか、聞こえませんか?」
「私には電波のように聞こえる」
言われてみると、電波のようにも感じる。だが、金属をこするような音にも聞こえる。
「音が、大きくなった」
博斗は歯を食いしばった。耳障りな音は、さらに耳に響き、脳を刺激する。
かと思うと、音は突然止まった。
「なんだったんだ? いったい?」
「空に信号を送ったのだよ」
ざあざあという雨の音に混じり、新たな声がした。
「その声は…」
はじめは、頭に突き出した飾りだけが目に入った。
次第に、シータの黒光りする装束が、頂上に現れた。
「こんなところで会うとは、奇遇だな。諸君」
「シータ…!」
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