次の日もよく晴れていた。

博斗、ひかり、理事長を先頭に、一行は御笠山に向かった。


三十分ほど歩くと、次第に木々がせまり、視界がだんだんと遮られてきた。

足元の草も膝まで被さるようになってきている。御笠山の斜面にも木々がうっそうと茂り、その合間を縫うようにして進んでいくしかないようだ。


「これは見れば見るほどピラミッドみたいですね」

博斗は、木々の葉の間から、頂上を透かすように眺めた。


「もう少し東のほうに、人が踏み固めた道があります。そこを使いましょう」

博斗は顎に手を当てた。

「もし、ムーがすでにここにいるんだとしたら、そんなわかりやすい道は見張られていると思いますが…」


「それは、杞憂ですよ」

「なぜ?」

「博斗さんは、ほんとうに何も感じないのですか?」

「何を?」


「みんなは、どう? なにか、感じませんか?」

「なんとなく…」

遥は首を傾げた。

「なにか、頭がずきずきします」

由布は顔をしかめている。

「彼らの気配と、でもそれとはまた別に、押し寄せるものが…」


「力が強いんですよ、ここは。そして、私達は、常に彼らに居場所を知られているようなものです。私達に必要なのは、隠密ではなくスピードだと考えます」

「ねえ、博斗せんせ、考えてる暇、ないかもよ。…ほら、雲行きも怪しくなってきた」


見上げると、さっきまで雲一つなかった空に、いつのまにかどんよりとした灰色の雲が立ち込めている。

「ひと雨来られるとほんとに洒落にならない。よし! 行こう! ムーなんて怖くないさ!」


「不吉な天気ですね」

由布が呟いた。

「こころなしか、風も強くなってきたようですね」

ひかりが髪を押さえて言った。


「あっ!」

燕がものの見事に転んでころころと転がった。

「あっはは、燕、ばっかねえ」


「う~、なんか、ひっかかったの」

燕は転んだ足元を指差した。


「なんだ、これは?」

博斗は、すべすべとした球体の石を拾い上げた。

「これにつまずいたのか?」

「うん」


ひかりが博斗の手の石を眺めた。

「完全な球体ですね」

「手触りも、ほら、墓石かなんかみたいにすべすべですよ」


「せんせー、こっちにも、ありますよ」

遥が少し外れたところを指差している。


「あら、こっちにも」

翠はまた別のところを指している。


博斗は、石を地面に降ろした。

「よく見れば、これは完全な球体ではない。やや、中心部が膨らんだ楕円形だ。おそらく、太陽系の惑星のどれかを意味しているんだろうな」

「何の意味があってこんなことを?」


「何かの、シンボルなのでしょうね。この御笠山が、宇宙となにか関係があるという…」

ひかりが天を指した。


「宇宙か…。確かに、ムーの遺産はすべて宇宙に結びついている。ギザのピラミッドも、太陽のピラミッドも、ナスカの地上絵も、あらゆる神話、伝承が、すべて宇宙に通じている。いったい、何がある? ここに?」


と、ひときわ激しい風が吹き、木々を揺らした。ぽつぽつと、大粒の雨が頬に当たった。


「誰!」

由布が鋭く叫んだ。

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