博斗は、理事長から渡された燕の中間テスト成績表を見ていた。


「国語2、数学2、英語2、化学2、世界史1…」

「一応、確認しておくが…陽光学園の成績基準は、中間試験、期末試験の評価の平均値を四捨五入して算出、その結果が1であった場合は赤点とみなし、補講再試験を要する。また、年間を通じて1評価となった科目が一つでもあれば、留級処分とする」


「あい、わかってます。…ふう」

博斗の肩は、地面につくかと思えるほどがっくりと落ちた。


平均が1ということは、2と1をとれば、1.5を四捨五入して2でセーフだ。つまり、世界史以外の科目は、今回の期末テストでどんな点を取ってもひとまず大丈夫、と言うことになる。


だが世界史だけは、もし、期末も1評価を取ったとしたら、補講再試験送りだ。

「くれぐれも、補講だけにはならんようにしてほしい。生徒会役員としてもあまり好ましくないし、補講は戦いにも支障をきたす。世界史の期末テストまではあと一週間だぞ。特別授業でも、個人指導でもなんでもして、とにかく、燕君の赤点を防止するんだ。…いいな?」


博斗は言い返す気力もなく、へろへろと理事長室を出た。


「おいっす」

博斗は生徒会室にひょっこりと顔を出した。

「あれ? 燕君はいない?」


「さきほど学食にいたのを見ましたですけれど…」


博斗は、3号棟の一階に移動した。この一フロアがまるごと学食である。


燕は、空いた皿と空き缶に埋もれるようにして、いまもまたカレーの皿を空けようとしているところだった。


「よく食うな、燕君」

博斗は燕に向かい合うようにして椅子に腰を降ろした。


「ば、ばうぼべんべい!」

博斗に気付き、にっこりと笑いながら挨拶をしようとした燕だが、その途端、口からぼろぼろと米粒がこぼれた。


「だあぁぁっ! 汚い! 食べるか喋るかどっちかにしなさい」

「んじゃ食べるね」


燕はあっさりと答えると、まるで博斗など見もしなかったかのように、黙々と食事を再開した。

博斗は頬杖をして、燕の食事風景を眺めた。食べているときの燕は、しあわせそうな顔をしている。


「ごちそうさまなのです」

燕は、やっと口を拭いた。


「燕君。今日は期末の話だ。…自分の成績は、わかってるかい?」

「ほへ?」


「いいか、今度の期末でな、世界史のテスト、1をとったら、補講になるんだぞ」

「ほこうってなに?」

博斗は椅子から転げ落ちた。

「いいかい、補講ってのはな、俺と燕君が、学校が休みの日にわざわざ登校して、みっちり勉強することだ」


「ふ~ん。いいよ、つばめ。はくとせんせいといっしょなんでしょ?」

「まあ、それはそうだな。俺も、燕君と一緒なんなら、補講もまあ、いっか…って、違うっ! なにを言わせるか! あ、あのな、補講の授業やってる間はな、メシも食わせてもらえないし、もちろんおやつも駄目!」

「えーっ! やだやだやだ」


「そこでだ! これから期末が来るまで、毎日放課後、教員室で俺と一緒にお勉強だ」

「ええええ~っ!」


「泣き付いても駄目。君自身のためなんだぞ? はい、さっそく今日から始めるぞ。来た来た」

博斗は、ぐずる燕の襟をつかむと、半ば引きずるようにして、教員室に舞い戻った。

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