放課後、生徒会室にまずやってきたのは由布であった。


「あら、由布さんだけですの?」

扉を開け、翠がやってきた。


「翠さん、わたし、審判会議にいきます。留守番お願いできますか」

「もちろんよろしいですわよ。わたくし遥さんと打合せがありますから、ここにいなければなりませんの」


「ありがとうございます」

由布は軽く礼をするとすぐにドアを出た。


その由布と入れ代わりに、燕と桜が連れ立って入ってきた。

「あ~ん、おなか減ったよ~、ごっはん、ごっはん」

「燕~。昼休みにも食べてるんでしょ?」

「うんっ」

「はあ。なぜそんなに食べても太らないのでいらっしゃるのですかしらねえ。うらやましい限りですわ」


勢いよくドアを開いて遥がやってきた。

「よっほー。やったわよ、雨、やんだの」

「遥さん、遅いですわ。開会式の打合せをするといってらしたじゃありませんか?」


「ごめんねー、クラスがちょっと長びいちゃって」

「それは聞き捨てならないですわね。このわたくしが、わざわざクラスを差し置いて馳せ参じたというのに、生徒会長たる遥さんが生徒会をほうり出すとは、不届千万ですわよ」

「だから~、ごめんってばぁ」

「ま、いいですわ。どう頑張ったところで、わたくしのクラスには勝てませんですからね」


「なによ、うちを甘く見ないほうがいいわよ。うちは団結力抜群なんだから!」

「おっほほほほ。古い古い。友情と団結で競技に勝てる時代はもう終わったのですわ。これからは戦略の時代ですわよ!」

「むむむむっ」


いっぽう博斗は、体育祭前の最終の教員会議からようやく解放され、癒しを求めて生徒会室に向かおうとしたところだった。


「瀬谷先生?」

「?」

呼ばれて振り向き、稲穂の姿を見た。


「や、稲穂君。どうだい? 稲穂君のクラスは、勝てそうかい?」

「えっと、よくわかりません。…でも遥さんがちゃんと仕切っていますから、いいのではないでしょうか」


「彼女、こういうイベント好きそうだからな。いまごろ燃えてるんじゃないの?」

「はあ。クラスでもすごい気迫でしたから。どうしてあんなに熱心になれるのでしょうね?」

「遥君の性格じゃないのかな?」

「性格、ですか」


「なんつーか、彼女は情熱的だからな、何事にも」

「情熱的…ですか」

「別の言い方をすれば、何事にも必死に取り組んでるってことさ。まあ、それは遥君だけじゃないけどな。やっぱり生徒会の彼女たちは、みんな一生懸命だよ」


稲穂は視線を床に落とした。

「そうですか…。では、もしもそれだけ頑張っている体育祭が中止になったりしたら、大変でしょうね」


「中止? ああ、雨かい? そうだなあ、彼女たち、やる気満々だからな。もし中止なんかになったらたいへんだろうな。でも大丈夫さ、もう雨も止んだみたいだし、明日までにはグラウンドも乾くって」

博斗は胸をどんと叩いた。


「…そ、そうですよね。ええ」

稲穂はこくこくと頷き続けるのだった。

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