「気になるのですか?」

モニターを見ながらひかりが言った。


「目撃したのが燕君一人じゃないって言うし、燕君は、嘘をつくような子ではない」

「そうですね…何か見つかるといいのですが…」


言いながらも、ひかりはモニターから目を離さず、操作パネルを叩いている。

モニターには、今朝早くから問題の時間頃までの、陽光中央駅の様子が、早送りで映し出されている。


このカメラは、一種のレーダーの役割を内包しており、ムー的な精神エネルギーに感応して自動的にアングルが切り替わるようになっているのだとかなんとか。


モニターの隅に出ている時刻表示がぐんぐんと進み、七時五十分を過ぎた。

そろそろ、問題の時刻であるが、このときにはまだ燕の乗っている列車は陽光中央駅には入っていないはずだ。


それまで駅の全景を映し出していたカメラが、突然アングルを変えて、駅とはまるで異なる位置を映し出した。

ひかりが慌てて画面を巻き戻し、通常再生に戻す。


時刻は七時五十二分。ちょうど燕が痴漢と揉め始めた頃か。

カメラが映し出しているのは、陽光中央駅に隣接する駅ビルの一つの、屋上付近だ。


「キャップ、あれを」

ひかりは画面を停止させ、その一部を拡大した。


人間らしきものが一人、そこに立っている。

しっとりと雨が降っているというのに、傘も差していない。


博斗は目を凝らした。

拡大されて解像度が荒くなってはいるが、その正体は容易につかむことができた。


漆黒の鎧と鮮やかな飾り付け。

敵とはいえ美しささえ感じさせるそのいでたちは、シータのものだ。


「…あいつがなぜあんなところにいる?」


シータははじめ腕組みをしていたが、燕を乗せた各駅停車がやってくるのを見ると、右手で列車を指差した。

そして列車が通過すると、満足げにうなずき、そのまま煙のように姿を消してしまった。


シータが姿を現してから消えるまでわずか二、三分。


その間に起きたことは、燕の列車がシータの眼下を通過して陽光中央駅に滑り込んだということだけ。

ちょうどその間に、一人の痴漢が列車から姿を消している。


「またあいつらの仕業ってことだろうな」

「そうですね。何が目的か知りませんが、人が一人消えています。このままにはしておけませんね」

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