7
「ねぇー、はくと先生?」
寝転がっていた燕がごろりと博斗のほうに転がって来た。
「なんだい?」
「どうしてこの辺、ワサビがいっぱいなの?」
「んー? 水がきれいだからだろ。おいしい山葵ってのは、すごくきれいな水がないとできないんだよ」
「へぇー」
そのとき、鋭い呼び声がした。
「先生、ちょっと来てもらえませんか?」
声の主は、庭にいる由布だ。
「?」
博斗はサンダルをつっかけて庭に顔を出した。ひかりがそれに続く。
「何かが、いました」
「何かって、何が?」
「…わかりません。でも何かが、あの木の影を走り抜けていきました」
「ははあ、そりゃあ、イノシシとかタヌキとか、そんなところじゃないのか?」
「いえ。違います。…気配がしました」
「…ムー人の気配ということ?」
由布は無言で頷くと、視線をその木陰に戻した。
「私達の誰かの気配と勘違いしたのではないのですね?」
「とても殺気立っていました。…私達ではありません」
「うーん…」
博斗は腕を組んで考え込んだ。
「由布が感じたのが、ムーの一味だとしてだよ、どうして連中はこんなところにいるんだ? パンドラキーを探すんなら陽光学園に行きゃいいだろう?」
「…私達スクールファイブそのものが目的なのかも知れませんね」
とひかり。
「おそらく、彼らはパンドラキーがどこにあるか、正確なところは知らないのでしょう。ですから、手がかりとなりうるスクールファイブを追ってきているということは考えられませんか?」
「なるほどね、それは一理ある」
「待ってください」
意外にも、由布が口を挟んだ。
「私達がスクールファイブであることは誰にも明かされていないはずです」
「それもそうだ。…とすると…」
「彼女たちの強い気配が気になって追跡して来たか…それとも、スクールファイブのなかに誰か密通者がいるか、あるいはその両方か、ということですね」
ひかりが冷静に言い放った。
「密通者…」
博斗は愕然とした。スクールファイブのなかに、ムーのスパイがいるのだろうか?
察したのか、ひかりが博斗の腕にそっと手を添えた。
「大丈夫ですよ。…彼女たちは、潔白です」
「ああ。俺はみんなを信じてるよ。ひとまず、メシにしよう。…腹が減っては何とやらってな」
この旅行は彼女たちを休ませるためのものだ。
博斗は、彼女たちに気づかれないよう、自分だけで調査をしてみるつもりでいた。
もしムーの怪人連中がこの辺りをうろついているのだとすれば、何かを仕掛けてくるかもしれないのだ。
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