「ねぇー、はくと先生?」

寝転がっていた燕がごろりと博斗のほうに転がって来た。

「なんだい?」

「どうしてこの辺、ワサビがいっぱいなの?」

「んー? 水がきれいだからだろ。おいしい山葵ってのは、すごくきれいな水がないとできないんだよ」

「へぇー」


そのとき、鋭い呼び声がした。


「先生、ちょっと来てもらえませんか?」

声の主は、庭にいる由布だ。


「?」

博斗はサンダルをつっかけて庭に顔を出した。ひかりがそれに続く。


「何かが、いました」

「何かって、何が?」

「…わかりません。でも何かが、あの木の影を走り抜けていきました」


「ははあ、そりゃあ、イノシシとかタヌキとか、そんなところじゃないのか?」

「いえ。違います。…気配がしました」

「…ムー人の気配ということ?」


由布は無言で頷くと、視線をその木陰に戻した。

「私達の誰かの気配と勘違いしたのではないのですね?」

「とても殺気立っていました。…私達ではありません」


「うーん…」

博斗は腕を組んで考え込んだ。

「由布が感じたのが、ムーの一味だとしてだよ、どうして連中はこんなところにいるんだ? パンドラキーを探すんなら陽光学園に行きゃいいだろう?」


「…私達スクールファイブそのものが目的なのかも知れませんね」

とひかり。

「おそらく、彼らはパンドラキーがどこにあるか、正確なところは知らないのでしょう。ですから、手がかりとなりうるスクールファイブを追ってきているということは考えられませんか?」

「なるほどね、それは一理ある」


「待ってください」

意外にも、由布が口を挟んだ。

「私達がスクールファイブであることは誰にも明かされていないはずです」


「それもそうだ。…とすると…」

「彼女たちの強い気配が気になって追跡して来たか…それとも、スクールファイブのなかに誰か密通者がいるか、あるいはその両方か、ということですね」

ひかりが冷静に言い放った。


「密通者…」

博斗は愕然とした。スクールファイブのなかに、ムーのスパイがいるのだろうか?


察したのか、ひかりが博斗の腕にそっと手を添えた。

「大丈夫ですよ。…彼女たちは、潔白です」

「ああ。俺はみんなを信じてるよ。ひとまず、メシにしよう。…腹が減っては何とやらってな」


この旅行は彼女たちを休ませるためのものだ。

博斗は、彼女たちに気づかれないよう、自分だけで調査をしてみるつもりでいた。

もしムーの怪人連中がこの辺りをうろついているのだとすれば、何かを仕掛けてくるかもしれないのだ。

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