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食堂に博斗達が入ると、稲穂以外は全員揃っている。
稲穂はまだトイレにいるのだろうかと考えていると、当の稲穂がひょっこりと姿を現した。
「お、遅れてすみません」
「いや、それは構わないけど…お腹はどうなんだい?」
「は、はい。…なんとか、食べられそうです」
テーブルには、大き目の茶碗に盛られた白米。そして御新香が一品。
ずいぶんわびしい昼食だと博斗がぼんやり考えていると、女将が現われた。
「お出しするつもりでした食材を切らしてしまいまして…。もちろんお代のほうは構いませんので…」
博斗は、ぴんときたが、素知らぬ顔で女将に答えた。
「そういうこともありますよ。いいんです、最近の子どもってのはいいもの食いすぎてますから。たまにはこういうのも」
どうも怪しい。ムーの気配と、何か関係がありそうな、そんな予感がする。
食後、博斗とひかりは女将をつかまえてみた。
「山葵園が全滅?」
「はい…まったく原因が分からないのですが…」
このホテルでは、食事に出す山葵は調理の直前に、近くの山葵園から直接採ってくるのだという。
今回も、博斗達に出すために新鮮な山葵を採りにいったところ、なんと山葵園の水が不気味な赤紫色に染まり、山葵がとても人前に出せるような状態ではなくなっているというのだ。
「これが、その山葵です」
女将は手のひらに山葵の形をしたものを乗せてさしだした。
「じ、人面山葵…」
ひかりが漏らした。
奇怪な物体であった。山葵らしき人参型の表面に人間の顔とおぼしきものがついている。しかもその顔、ときおりこっちを見てはにやにやとしており、悪趣味このうえない。
「山葵がこんなになったのは、いつからなんです?」
「けさ採りにいったときは、いつも通りだったのです。…お昼になって、お客様に出すために採りにいきましたら…」
博斗はひかりと顔を見合わせた。ひかりも頷く。
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