朝の予鈴が鳴った。

「じゃ、放課後また」

「ばいばーい」

桜と燕が生徒会室を飛び出し、階段を駆け上がっていった。


由布は剣道部の朝練があるので、朝は生徒会室に顔を出さない。

翠は、寝起きが悪いとかで、毎朝このぐらいの時間になってようやく、校門前にリムジンでやってくる。


遥はというと、生徒会室の鍵を締め、自身も教室に急いでいた。

2-3の教室に飛び込むと、もう予鈴が鳴ってからだいぶたっているはずなのだが、教室がざわついている。しかも、いるはずのない担任が、教壇に立っているではないか。

「あ、あらら?」


「中津川君、早く座りなさい。転入生を紹介する」

「転入生?」

あらためて教壇を見ると、なるほど、担任の隣に見知らぬ女生徒が立っている。背は女子にしては高め、すらりとした容姿で、髪は真っ直ぐ後ろに垂らしている。おとなしそうな、可愛い子だ。


「それじゃあ、自己紹介してくれるかな?」

「はい。…飯塚、稲穂(いいづかいなほ)です。仕事の都合で、引っ越してきました」

「席は…ああ、中津川君の隣は空きだね?」

「はいっ! どうぞ」

「それじゃ、あの子の隣のところへ。中津川君は生徒会長だから、困ったときにはきっと力になってくれるよ」

「わかりました」


稲穂は遥の隣に静かに腰を下ろした。

「あたし、遥。中津川遥っていうの。よろしくね」

遥は右手を差し出した。

「は、はい。…私は、飯塚、稲穂です」

稲穂は恐る恐るといった感じで、遥の右手を握る。


一瞬、遥は、ぴりりとした電気のような刺激を受けた。ムーの力の影響なのかもしれない。この学園に入って来たということは、稲穂もムーの血を多少なりともひいているということなのだから。

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