憧れた異世界は優しい世界ではありませんでした。
@Sea_Mia_RGi_U3
プロローグ1 異世界転移は想像よりも優しくない。
―――残念ながらあなたはお亡くなりになりました―――――――
そんな失礼な声によって、俺は目が覚めた。
「こんにちは、佐野さの 進しんさん、いきなりで悪いのですがあなたにお願いがあります」
姿は見えないが、声が聞こえる。場所はユウニ塩湖のような場所に立っている。俺の返事を待たずに声は話を続ける。
「申し訳ないのですが、世界を救って欲しいのです。無関係の方を巻き込むのは気が引けるのですがもうこれしか方法がないのです」
この時点で話が読めてきた。最近ネット小説で溢れかえっている異世界転生というものだろうか。体が熱くなり、にやけそうになる。
「これから行ってもらう世界は、進さんのいた世界で言う剣と魔法の世界に似た世界です。そこで世界を救って欲しいのです。詳しいことは制約によって喋れませんが、自分で何が正しいのかを判断してください」
質問をしようとしたが声が出なかった、よく見たら自分の体は若干透けていた。
「異世界に行くにあたって、あなたに力を一つ与えたいと思います。望む力を強く思いながら目を閉じてください。あまり力になれず歯がゆいですが、進さん私はいつも見守っています」
それ以降、聞こえていた女性の声は聞こえなくなってしまった。
どうしようか、俺に選択する権利がないよなぁ。まあ、俺はゆわゆるオタクで異世界にあこがれを抱いているので嬉しい限りだ。
言われた通りに目を閉じ望む力を思う。そうすると、体が一瞬重くなり、直後耐え難い頭痛に襲われ意識を失った。
「痛てえ、どうなってるんだ」
まだ痛む頭を押さえる。少しずつ頭痛が収まり始め意識が明瞭になってくる。あたりを見渡すと草木の生い茂る森という感じだった。整備された道などもなく、さっそく迷子になってしまった。
「これどうすればいいんだ……まあ俺の望んだ能力がきちんと発動していれば死ぬことはきっとないし、とりあえず歩くか」
道なき道を歩くこと体感で2時間ほど。
「失敗したかなあ、どんどん森の深いところに来てる気がする。でも今更引き返すのもなあ」
しょうがなく道を進んでいくと開けた場所に出た。そこには、劣化版高床倉庫のような建物が数軒不規則に建っていた。
「やっと人工物があった!」
正直今日は人に会うことはできないと思っていたので嬉しさのあまり状況を確認もせずに駆け寄ってしまった。
「おーい誰かいませんかー。一晩でいいから泊めてほしいのですが」
そこまでやらかした後で気づいた、否気づいてしまった。建物が人が使うには少し大きいことや、微かにだが血の匂いがすることに。この時、俺は円状に広がっている空間のほぼ中心にまでいた。
「ブオ゛ーーー!」
大きなぐぐもった声が聞こえた。その声の主は2メートルくらいの二足歩行をする豚だった。前の世界の知識でいうオークである。オークの方には自分と同い年くらいの女性が担がれていた。
外からやってきた声になのか、俺の声になのかわからないが、建物からもオークが出てきた。その数およそ15
「いきなり積んでんじゃないのかなーこれは」
ひとりでに自分の声が漏れていた。思考するよりも早く体が勝手に動き出し一目散にその場から逃げ出した。広場を抜け出し後ろの状況を確認するとさっきいたオークが全員追いかけてきている。
「くそっどうなってんだ。完全に即死ルートじゃねえか」
悪態をつきながらも、全力で逃げる。逃げた先が運良く木の密集しているところで、オークの巨体ではうまく進めないようで、距離が少し離れた。
その後慎重に距離を取り見えないところにまで逃げ切ることに成功した。
だんだん冷静になってくると、さっきの女性のことが気になった。
オークといえば薄い本でも大活躍のモンスターであり彼女が無事であるとは思えない。
そう考えると、助けたいという気持ちが生まれてくる。力のない自分が何を言っているのかと思うが一度気になるとどうしようもなくなってくる。それに彼女はこの世界で俺の知る唯一人間であり手掛かりなのだ。
作戦を考え実行に移すことにした。作戦は簡単である。オークをなるべく多く広場から遠ざけその隙に彼女を救出する。
走ってて気づいたのだが、オークより俺のほうが足が速い。この世界に来てから相当身体能力が上がっている。これなら、女の子一人なら何とか担ぎながらでも逃げ切ることができそうだ。
オークの広場にまで戻ってきた。
「おらぁ!オークども戻ってきてやったぞーかかってこいや」
震える声でそう叫びながら石を建物にぶつける。オークは言葉がわかるのか、それともほかの理由なのか怒った様子で建物から出てきた。今回は20匹のオークが出てきた。
「「「ブル゛モ゛オ゛ーーー!」」」
叫びながらこちらに向かってくる。さっきと同じようにもく木の密集しているところに逃げ込み、そのまま急いで広場に戻る。
広場には何もいないようで静かなものだった。彼女を探すと三軒目で彼女を見つけた。そこには彼女の他にも、もう一人顔立ちの似た女性が気を失っていた。そのままにしておくこともできずに、二人を肩に担ぎ広場を抜けようとすると一匹のオークと鉢合わせてしまった。
二人を背負うと、上がった身体能力でも逃げ切れそうにない。それでもここにいるメリットは一切ないので逃げ出した。
相手のオークは追いかけてくるのが遅かったので、どうしたのかと思ったら棍棒のようなものを持って追いかけてきた。
鳥肌が立った、これが殺気というものだろうか一瞬んで冷や汗が全身から噴き出て体が震える。
この2人を連れ出されて怒っているのだろう。木などを利用してうまく逃げているがだんだん距離が縮んでいる。
そんな時流れの激しい川に突き当たった。逃げ道がなくなりオークに追いつかれる。
オークは下品な笑み浮かべ、振り下ろしてきた。ギリギリでよけることに成功した。それを何度か繰り返すうちに、しびれを切らしたオークが横なぎに棍棒を振るってきた。突然のことで避けれずに後ろに吹き飛ばされてしまった。
そのまま、俺達は川に突き落とされてしまった。
最後にオークの「やちまった」という声が聞こえそうな表情が見えたのが愉快だった。
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