第2話 ゲーム開始
パソコンゲームのキャラクター、今ながらにして木桜は思った。
アニメのロリ顔や巨乳にしなくてよかったと。
勿論、カタンコペではそういうキャラクターもいるようだが、自分が求めているのは違うのだ。
まず第一に現実のセックスは疲れる、若い世代ならともかく、三十も半ばを過ぎれば一回やれば腰や背中がばきばきだ。
それに現実のセックスは妊娠以外にも色々なリスクがある、性病だ。
十代の高校生でも梅毒、いやセックスしなくても病院でエイズに感染という不幸な事故があるのだ。
性に大らかで好奇心と興味があるのはわかるが、それで病気になり、周りから変な目で見られたり噂になったりするのは避けたいところだ。
だからゲーム内でのセックス=安全、安心というものをやってみようと思ったのだ。
だが、これだけは避けようと思っていたことがあった。
SM、アブノーマル、鞭や蝋燭、女王様キャラは却下だ、ゲームのキャラとはいえ、自分の分身、キャラがぴちぴちスタイルのボンテージやハイヒールという格好のプレイは、ゲームが終わった後、現実と比較すると空しさを感じる。
自分が百キロの巨漢、デブなら、ああ、現実なんて見たくないと可愛いキャラにしようと思うだろう。
大人になった自分は色々と都合良く考えるのだ、生きること仕事、勿論、遊ぶこと、ゲームにだって、自分に優しくしてほしいと思うのは我が儘かもしれないが。
挿入はなし、触るのは服、下着の上から、挿入はなし。
相手キャラに求める事、不能、だがアブノーマルプレイはなし、相手の性器をくわえたり、それから出る白い液体で顔や体を汚されて濡らされるのは正直、嫌だった。
学生時代からアニメと漫画、映画と小説、社会人になり、余裕ができるとゲームにも手を出した。
日本のゲームだけでなく海外の、洋ゲーというものもだ。
ゲームの中で結婚できる、セックスできる海外ゲームを知り、日本では何故、ないんだ。
青少年によくないから、十八禁ならいいだろうと思うが、禁止されているものほど手を出すのが人間だ、でも、自分は大人なのだ。
フィリップ教授、大学教授、ゲームである舞台は外国、アメリカに似た雰囲気だが、年齢は四十ぐらいだろうか、白髪で眼鏡をかけている、太っているわけではない、外国人の普通の顔つきだろうか。
猿を二匹飼っているという設定、思わず昔の映画を思い出したのは、あの有名な猿の惑星、もう一つはホラーだ。
一緒に暮らしているうちに、猿の知能がだんだんと高度に人に近くなってきて、最後、飼い主の教授は殺されてしまうのだ。
モン・アムール、日本の監督が作ったチンパンジーの、あの映画はよかったなあと思いながら、ゲームを始めた初日、木桜は猿たちの世話に追われた。
最初の覗き見から数日が過ぎた。
ああ、こういう願望があるキャラクターなのか、二匹の猿に押し倒されている、その姿を見た数日後、フィリップは覗き見の選択をやめて部屋に入った。
部屋の中の様子を見て、そして自分も興奮しているんだとばかりに、彼女に抱きついたのだ、巨乳という感じの容姿、キャラクターではない、両手で乳房を揉むというメッセージを出していると、自分たちの行為を二匹の猿がじっと見ている。
その事に気づいた彼女は視線を猿に向けている、恥ずかしいといわんばかりの顔だ。
フィリップは促すように部屋を出た。
そこは書斎と寝室を兼ねた部屋で本棚と机、隅には仮眠がとれるよう簡易的なソファーベッドも用意してある。
だが、部屋に入ると同時に彼はベッドではなくドアのすぐ横の壁に彼女の体を押しつけた。
それは現実の自分ではあり得ない行為であり、スタイルだ。
「ガタンッ」
胸に手を伸ばしこれからだという時、ドアの向こうで音がした。
二匹がドアの向こうに行て聞き耳をたてているのだろう、それを耳元で囁くと表情が変わった。
中には入ってくることはできない、だが、動物なので人間より、聴覚は良い筈だ、フィリップはマイクではなくキーボードを叩いた。
「私たちが」
キーボードを叩こうとして、マイクの方が早いと思ったが、その瞬間だ、画面にメッセージが浮かび、同時に切り替わった。
息を吸い込み、背中を深く預けるようにして、フィリップは部屋の隅のベッドに腰掛けた、そして目を閉じた。
セックスを望むときの女性の態度というのは、あからさまで、時に、羞恥というものがないこともある、若いときは欲望に流された、どうして、今、そのことを思い出したのだろう。
何故なら、彼女が、そうだったからだ。
結婚前から大胆で、自分の欲望を隠そうとはしなかった、そして自分は飲み込まれてしまったのだ。
ここで、そんなことをしては駄目だという自分に、彼女は強引に迫ってきた。
自分の職場である大学の自室で、机の上で、だ。
メアリー、何故、彼女のことを思い出したのだろう、苦々しい、正直、思い出したくないし、不快さえ覚えるほどなのに。
もう、寝よう、着替えるのも面倒で、めがねを外して天井を見上げたが、だが、なぜか目がさえて眠ることができない。
何を思ったのか、体を起こし伏せるように顔を埋めた。
まるで、柔らかなもの、それが形あるもののように。
大丈夫だと頭の中で台詞を呟いた、口にこそ出さないが、それはある意味、現実よりもリアルに感じられた。
自分に向けたものなのか、それとも、ああっ、何をしている自分はと思ったのも無理はない、誰に聞かせるでもない台詞だというのに、今、自分の体の下、手の中には二つの膨らみが、存在している。
行為の最中、モニターの中の女性は台詞らしきものはなかった。
羞恥だ、恥ずかしいと思っているのだ彼女は、だから何も言えなかったのだ。
それは自分勝手な解釈かもしれない、だが、そう考えると。
性欲を感じて、すぐに下半身を露出し、さらけ出して、早く挿入してくれ、などと、半ば強制的な台詞で腰を振ったりするセックスは、どうなのだろう。
メアリー、君は私など必要ない、男の生の肉体、棒など必要ない、バイブで、おもちゃで、自慰行為で十分だ、売女だ、メアリー、相手が誰でも足を、股を開いて求めるんだ、メアリー、君という女は。
「大丈夫、入ってこれない、恥ずかしがることはないんだ」
自分の口から出た言葉にフィリップは驚いた、どんな顔をして、そんな台詞を。
あまりにも馬鹿馬鹿しく、いや、恥ずかしいと思ったが、自分の手は止まらない。
想像だ、ゲームだ、だが、頭の中、目を閉じると浮かんでくるのだ。
だから、止めることなど、馬鹿馬鹿しいと思えるような行為を彼はやめることなどできなかった。
これは今の自分に必要なんだと言い聞かせてフィリップは目を閉じた。
ドアの向こうには二匹の猿がいる、自分が何をしているかと聞かれたら説明すること、言葉では伝えることができないだろう。
だが、分かるはずだ、二匹の前でしたのだ。
それを、した、のだから。
カタンコペというゲーム 今川 巽 @erisa9987
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