転生魔法少女マギ クズの願いが世界を変えるまで
Ātman(アートマン)
エピローグ
エピローグ
真っ暗な深海のような意識の底。ここに時間や空間はない。かろうじて自分だと認識できる何かが、漂っているだけ
遠くに火のような明かりが灯る。海中からみた海面に揺れる太陽のような形の曖昧な光が見えた。この世界と向こうの世界の境界線へ、光りを辿るように私の体は浮かび上がっていった。
◇
オレが、目覚めたのは、穏やかな深い森の中だった。
若々しい緑の葉が、風に揺られれていた。 隙間から漏れる、木漏れ日がキラキラと眩しい。 葉擦れの音がザアザアとなり、まるで光のシャワーを浴びているようだ。
さっき見た海中からの、陽光みたいな光はこれだったのだろうか。
小鳥はさえずり、生命力に溢れた森が緑に満ちる。新緑の季節だろうか。体を撫でる、風が心地良い。 大きく深呼吸をする。おれは、この空間が自分のものみたいに、大の字で寝転んでいた。
◇
うん。ある問題から、目をそらして、あるがままの情景に浸るなら、いつまでも、こうして仰向けで、寝転んでいたいくらいの穏やかな空間。
「....」うん。その問題というのは、なんでここにいるのか。ここはどこで、いまはいつなのか。心当たりも、記憶もまるでないということ。
今の状況から、一番可能性の高そうなのは、誰かに連れさられた。という風景とは真逆の、穏やかでない選択肢。
なのだが。 悲しいかな、自分に誘拐されるだけの価値があるとは思えない。オレは、お坊ちゃまではないどころか、身代金を要求する身内は、一人としていない。
さらに、輪をかけて悲しいことに、自分自身にも連れ去る価値を見いだせない。 だって、オレは特筆するようなことはなにもない、平凡な男子中学生。 顔も、運動も、勉強も、上にも下にも飛び抜けてはいない。
生まれや、育ちはちょっと特殊で、親の顔を知らなかったり、生まれてすぐに、遠い親戚のお寺に引き取られて育てられたりしているのだが、現状はただの一学生に過ぎない。
こんな、森のなかに一人で、放り出しておいて誘拐もあるまい。 なんだ、ヤクザにでも山に捨てられたのか。それともバトルロワイヤルでも始まるのか。
なるべく、最新の、つまりは、ここに来る前の、記憶を思い出そうと、ぐるぐる頭を回すが、やっぱり何も思いつかない。
◇
なんでこんなにも記憶がミキサーでかき混ぜたみたいにぐちゃぐちゃなんだろうか。
んん? 中学なんてとっくに卒業してたっけ? なんでオレは、身内がいないだなんて思ったのだろうか。 オレを引き取ってくれた、唯一の家族のお師匠様がいるじゃないか。 育ちは特殊だが、別にそれを不幸だとは思ったことはなかった。 宗派的に贅沢な生活ではなかったが、穏やかな暮らしに、オレは満ち足りていた。
....ああ、そうか。身内はもういないというのが正しいのか。 記憶をたどる中で、嫌な出来事にまでたどり着いてしまった。
中学の終わり頃。 オレの唯一の家族であり、恩人でもあり、師匠でもあった、育ての親は亡くなった。 あの頃のことは、打ちひしがれるような悲しみと、ゴタゴタのせいで、よく覚えていない。 思い出したくもないのだろう。
見たこともない親族が集まって、葬儀やら相続のことやら、知識もなくただ、悲しみに暮れる、自分は蚊帳の外で、手続きが進められていった。 結局、オレに残されたのは、ほんの僅かなお金と、小さな物置のようなプレハブ小屋だけだった。
そのまま、義務教育を終えて、中卒という形で、社会に放り出された。
生まれた意味を追い求めた師匠の教えと、利益が最優先の資本主義社会とのギャップに最初は戸惑った。 だが、人は適応する生き物で、幸いにも、オレの体は至って健康体だ。 先進国である、現代日本で、ただ生きていくだけなら、まあ、そんなに難しいことでもない。 バイトで食っていけるどころか、自由に使えるお金さえ生まれた。 オレは、自堕落な生活に沈んでいった。 人から見れば、最底辺のクズ。
一年か二年程、怠惰と欲求に任せた、その日暮らしの生活を続けた。 しかし、いつも頭の片隅にあったのは、師匠との思い出。 この生活に果たして、意味があるのだろうかという疑問を持ち始めるようになった。 このままでいいのか、という焦燥感がジリジリとオレを攻め立てるが、自分が何をすべきなのかもわからない。
それで、えーっと、どうしたんだっけ? ここから先は、靄がかかったように記憶が途切れている。
◇
誰にも望まれず生まれて、何も為さないまま、誰にも知られず死んでいくのか。
ただ一つ言えることは、ここで眠るように寝転んでいても、何も解決しないということ。 今、オレがやることは決まっている。立ち上がることだ。
オレの身の上の話も、いま、自分が置かれた状況も、泣き言や、恨み言を言っても、誰も助けてはくれないし、何かが変わるわけでもない。 結局、立ち上がるのは、自分の意思だ。
なんて、気負いとは裏腹に、休日の朝みたいに、もそもそと起き上がろうとする。
そんな時だった。 木漏れ日の中に、幻想的に佇む、人影に気づいたのは。
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