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 そろそろ中元期ということで、営業部全員参加による決起集会が開かれる。この日は普段なかなか接する機会の無い他の課の社員たちとの親睦を深める目的もあり、一課から五課まで総勢百名ほどが集合した。そんな中、一課の隣のエリアを担当する二課の女性社員と話をしていた波那の所に、パンツスーツ姿の長身美女がやって来る。

「紹介するね、こちら南愛梨ミナミアイリさん。ウチの看板セールスレディよ」

 波那はいかにも仕事の出来そうな美女を前に少々緊張してしまう。隣の課にこんな綺麗な人いたんだ……聞くと昨年福岡支社から転勤してきて、麗未が通っていた大学の卒業生と分かる。彼女は大学院まで通っており、英語を始めとした八か国語を操る才女だそうだ。

「看板だなんて大袈裟な。初めまして、南愛梨です」

「小泉波那です」

 理想の妻像を目の前にして一人ときめいている波那だったが、それを隠して握手を交わす。

「実はウチの姉も同じ大学の卒業生なんです」

 波那は麗未を利用して話を繋ぐと、意外とあっさり食いついてくる。

「お姉さんとはいくつ違うんですか?」

「双子なんです。建築学部で、確か四十八期生だったと思います」

 彼女たちが通った大学は全国でも最大規模級を誇る学校で、キャンパスも数ヶ所点在していて面識が無い事も十分考えられた。愛梨は少し考える仕草を見せて、四十八期生なら多分同い年ですと言った。

「建築学部で同期生なら小泉麗未さんかしら? キャンパスが違ったから直接お会いしたことは無いのですが、彼女有名人でしたから」

「えっ?」

 波那は嫌な予感がして笑顔が固まってしまう。麗未は近所で評判の才女であると同時に、男性もあっさり打ち負かしてしまうほどの怪力としても有名なのだ。

「彼女建築学部では史上初の女性主席卒業と言う事で結構話題になったんです」

「そうですか」

 波那は余計な武勇伝ではなかったことに心の中でホッとする。ここで麗未の悪行? を知られるのはマズイ。となるべく成績優秀路線の内容で乗り切る事にする。

「麗未さんのお話は中等部から通っている友人から多少伺っていたんです。ただこれまで酒の飲み比べで負けたことが無い体育学部の男性の先輩を酔い潰したって話を聞いた時は驚きましたが……」

 やっぱりあった……波那は心の中で泣きそうになりながらも何とか笑ってごまかしていた。しかしこれがきっかけで二人は親しくなり、近日中に友人を誘って遊びに行く約束をしたのだった。


 約束の当日、波那と愛梨はそれぞれ二人の友人を誘ってグループデートをする。波那は丞尉と、彼の高校の同級生である正木大輔マサキダイスケという男性を連れて行く。愛梨も大学時代のサークル仲間を連れて来ていた。

 そのデート中波那は愛梨には丞尉との方が気が合うように見受けられた。語学が堪能だったり嗜好が似ていたりして、午後からは二人で行動するようになり、波那と正木は友人二人の相手をするとだけとなっていた。

 この日はそれで別れ、それからひと月ほど経って愛梨と丞尉の交際がスタートした。波那はまたも仕切り直しとなったのだが、友達に恋人が出来たのは喜ばしいことであった。


 グループデートの後、波那は二つのお見合いに参加した。一つ目は四十代前半の外資系企業勤務、二つ目は三十代後半のテレビ局勤務の女性だった。二人共仕事優先を容認してくれる男性という点で波那に興味を持ったらしいのだが、家庭的なタイプではなく同志のようなタイプを求めていた。乙メンの波那では女友達扱いで、結婚相手として見てもらえなかった。

 彼は憧れの『主夫』への道のりがこんなに厳しいものなのか、と婚活の難しさを妙に痛感させられている状態だ。


 そんな中、波那の職場の上司でまさにそれを実行している男性社員がいる。彼は営業一課課長代理の小田原淳二オダワラジュンジ四十五歳、二十歳の娘を筆頭に、九歳、五歳、三歳の息子が居るために育児勤務状態を十年近く続けている。

 この会社では男性も育児に参加できるよう、女性の社会復帰がいち早くスムーズに行えるよう全社員に一子につき最大六年の育児休暇ないしは勤務制度が設けられており、彼は妻に代わってこの制度を最大限利用して積極的に育児に奮闘しているのだ。

 小田原の妻は官僚勤務の才媛であり、夫よりもはるかに給料が良いので一家の大黒柱となって家計を支えている。よって彼は毎日午後三時に退社して、子供の幼稚園へのお迎え、日々の買い物、家に帰れば洗濯物を取り込んだり、夕食を作ったり。

 彼に言わせると家事の方が忙しいそうで、仕事ではほぼ窓際状態となっている。それでも本来は優秀な人材であることを裏付けるかのように、社内では物凄い人脈を持っていて何かと人望は厚い人だ。

 

「ところで波那ちゃん、婚活は順調?」

 この日波那は小田原と屋上へ上がり、自作のお弁当を広げている。 

「いえ、なかなかうまくいかなくて……」 

「そんなに焦らなくて良いと思うよ。出逢う時にちゃんと出逢えるようになってるから」

「だと良いのですが……」

 このところ撃沈続きの彼は少しばかり落ち込んでいた。しかし小田原はまだ若いんだからと笑っており、慰めるかのように背中をポンポンと叩いてきた。

「大丈夫大丈夫、今がっつくとかえって変なの捕まえちゃうよ」

「はい、そうですよね」

 波那はようやく笑顔を見せ、二人はお弁当のおかずを交換しあって和やかなランチタイムを過ごしていた。

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