第126話 知りたくなかった事実

 夜7時50分。

 この時間に出ると大体、春日野や栗平と特別科寮入口で出会う事になる。


「お疲れ」

「疲れた」

「おまえはイチャイチャ疲れだろ」

 という感じで合流して。


「それにしても予想以上にパワフルだった。全員ではないだろうけれど」

 春日野がそんな感想を言う。


「テニスとか卓球か?」

 僕も最初に見た時は結構衝撃的だったしな。


「それ以外でもだ。それに刺客相手の無双も。仮にも刺客ならそれなりの腕がある奴が来る筈だ。それがああなるという事は、此処がよっぽどとんでもない魔女を集めているという事だろ。栗平の彼女を含めて」

 まあそうなのだろうけれど、ひとつ春日野が気づいていない事がある。


「でも多分、春日野おまえがいつも一緒に飯を食べている明里さんも似たようなものだと思うな。楓さんを連れて行ったのは今のうちから1年生にも実戦にならせておく程度のつもりで。明里さんと舞香さんは見えている範囲なら明里さんの方が強力だって、以前に舞香さんが言っていたから」


「おいおいそうなのか。でも舞香さんや明里さんは攻撃魔法は使わないだろう」


「舞香さんは一度使ったのを見たな。相手の知識や思考力を大幅に低下させるというとんでもない魔法を」


「そうなのですよ」

 あ、出たなセクハラ兼解説役


「舞香の『ホゲホゲ』と同様に明里も『砂嵐』という知覚妨害魔法を持っているのです。あれは『ホゲホゲ』以上に危険な魔法なのです。一度かけられると、全ての知覚がアナログテレビ放送のチャンネルあわない状態になるのです。ひたすら白黒が意味なく入り乱れる視界とザーッという音だけの世界になるのです。触覚も嗅覚も魔法も何もかも効かなくなるのです。1分もあれをやられると精神的にやばくなるのです」

 やっぱり明里さんも攻撃魔法を持っていたか。


「ホゲホゲって何だ」


 そうか、栗平も春日野も知らないよな。


「知性殲滅魔法なのです。あれが聞くと思考回路が知識ごとアクセス不能になるのです。何か言おうとしても、ホゲホゲ以外に言葉が出なくなるのです」


「何だそりゃ」

 栗平はあの魔法の怖さを理解出来ない様子。

 まああれは現場で見ないとわからないかもしれないな。

 見るとなかなか衝撃的なのだけれど。


 それにしても会長。

「よく御存知ですね」

 明里さん、滅多にそんな魔法出さないだろうに。


「何度もかけられたので良く知っているのです!」

 そういう事かよ!

 まあそれは別として気になる事がある。


「それにしても会長、どうしてこうタイミングよく出てくるんですか」


 会長、にやりと笑みを浮かべる。

「それは貴重な男子生徒の動向を常日頃見張っているからなのです。日々の言動から風呂の中、トイレの中まで常に見ているのです。空間操作魔法はこういう使い方も出来て便利なのです」


 おい、本当か。

 僕にとっても初耳だ。

 春日野も栗平もげっ!という顔をしている。


「何せ貴重な男子なのです。間違って薔薇化して食べられなくなると不味いのです。そうならないよう常日頃見張っているのです。ちなみに特別科には百合なカップルが数組いるのです。だから念には念を入れておくのです。ついでに私の中にもアレ入れて……」


 そこで会長の台詞が途切れる。

 見ると会長がいたはずの位置に、波都季さんが肩をすくめて立っていた。


「合宿の会計確認している途中にいなくなったから、大体こんな事だろうと思ったんだ。悪かったな。会長はちょっと処理した上で別空間に隔離しておくから」


 そして消える。

 どっと疲れがでたけれど。


「行こう。午後8時に遅れたらまずい」

 それ以上は言わない。


 それにしても疲れた。

 会長に常時監視されているという新たな事実も発覚したし。

 まあ今更気にしてどうかなるものでもない。

 忘れよう。

 僕達が寮へと帰っていく足取りは重かった。

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